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共同研究の成果物をスタートアップに単独帰属するとWIN-WINになれる理由スタートアップとオープンイノベーション〜契約成功の秘訣〜(5)(4/4 ページ)

本連載では大手企業とスタートアップのオープンイノベーションを数多く支援してきた弁護士が、スタートアップとのオープンイノベーションにおける取り組み方のポイントを紹介する。第5回は共同研究開発契約をテーマに、締結時の留意点を前後編に分けて解説したい。

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最恵待遇条項の入れ方

 一方で、共同研究開発において貢献した連携事業者に、独占以外のメリットをいかにして提供するかは課題です。レベニューシェアも1つの手ですが、連携事業者の事業規模次第では一定の分配額が期待できず、実質的なメリットへの不足感が生まれる可能性もあるでしょう。

 そこで、「最恵待遇条項(MFN)」※9を入れる方法が考えられます。事業連携指針では、「合理的期間に限って、対象領域についてサービス利用料の優遇などの経済的便益を受けることは一定の合理性を有する場合もある」と指摘していますが、適切な条件設定を行えば合理的な利害調整規定として機能します。ただ、同じく事業連携指針では最恵待遇条件の設定が「より有利な条件でスタートアップと取引することが困難となり、当該競争者の取引へのインセンティブが減少し、連携事業者と当該競争者との競争が阻害され、市場閉鎖効果が生じるおそれがある場合」に、拘束条件付取引(一般指定第12項)として問題になる可能性を指摘しており、注意が必要です。

※9:なお、最恵待遇条項を入れる場合においても、契約に最恵待遇条件を入れることにより、その後の他の取引事業者に対して有利な条件が設定されたときには、その有利な条件がそのまま契約先の連携事業者に適用されることとなるため、受け入れる際には慎重に契約先の連携事業者との将来の取引関係を検討した上で適用年限等を設定すべきである。加えて、あらかじめ交渉の場において取引条件を明確にするとともに、対価に関する十分な協議を行うことが重要である。

 最恵待遇条項の入れ方について、モデル契約書(AI編)では(利用契約の条項ではあるものの)以下のように定めています(利用契約8条)。

第8条 乙は、甲に対し、データ解析サービスの対価として下記計算式により計算した金額を支払う。

【計算式】

本連携システムを通じたAPIリクエスト回数1回あたりの単価●円(外税、以下「API単価」という)×利用回数

2 本学習済みモデルが甲乙間で共同開発されたことを考慮し、前項に関わらず、本契約締結日より3年間は、前項の計算式におけるAPI単価を下記計算式の通り減額する。なお、下記計算式における「対象事業者」とは、介護領域において甲からデータ解析サービスの提供を受けている事業者を言う。ただし、以下のいずれかに該当する事業者は除く。

(1)乙と同様、甲が提供するサービスに用いられる学習済みモデルの生成に貢献したことを根拠としてAPI単価が減額されている事業者

(2)エンドユーザに対して直接見守りカメラシステムを提供している事業者以外の事業者(システムインテグレーターなどを含むがそれに限られない。)

(3)(2)に定める事業者を介して甲からデータ解析サービスの提供を受けている事業者

【計算式】

甲が、乙以外の対象事業者に対してデータ解析サービスを提供する際のAPI単価のうち最も安い単価(外税)×90%

3 乙は、甲に対し、追加学習サービスの対価として1か月あたり●円(外税)を支払う。

4 乙は、甲に対し本条1項および同3項に定める対価を、本契約締結日以降、1か月毎に、当該期間の末日から●日以内に支払うものとする。

5 乙は前項の対価を甲が指定する銀行口座振込送金の方法により支払う。これにかかる振込手数料は乙が負担するものとする。

6 本条で定める各対価についての消費税は外税とする。

7 本条の各対価の遅延損害金は年14.6%とする。

終わりに

 今回は、事業連携指針を踏まえつつ、スタートアップとのオープンイノベーションにおける共同研究開発契約の留意点の一部についてご紹介しました。次回は後半として、共同研究開発における他の留意点を取り上げます。

 ご質問やご意見などあれば、下記欄に記載したTwitterFacebookのいずれかよりお気軽にご連絡ください。また、本連載の理解を助ける書籍として、拙著『オープンイノベーションの知財・法務』、スタートアップの皆さまは、拙著『スタートアップの知財戦略』もご活用ください。

⇒前回(第4回)はこちら
⇒次回(第6回)はこちら
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筆者プロフィール

山本 飛翔(やまもと つばさ)

【略歴】

2014年 東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻修了
2016年 中村合同特許法律事務所入所
2019年 特許庁・経済産業省「オープンイノベーションを促進するための支援人材育成及び契約ガイドラインに関する調査研究」WG(2020年より事務局筆頭弁護士)(現任)/神奈川県アクセラレーションプログラム「KSAP」メンター(現任)
2020年 「スタートアップの知財戦略」出版(単著)/特許庁主催「第1回IP BASE AWARD」知財専門家部門奨励賞受賞

/経済産業省「大学と研究開発型ベンチャーの連携促進のための手引き」アドバイザー/スタートアップ支援協会顧問就任(現任)/愛知県オープンイノベーションアクセラレーションプログラム講師
2021年 ストックマーク株式会社社外監査役就任(現任)

【主な著書・論文】

「スタートアップ企業との協業における契約交渉」(レクシスネクシス・ジャパン、2018年)
『スタートアップの知財戦略』(単著)(勁草書房、2020年)
「オープンイノベーション契約の実務ポイント(前・後編)」(中央経済社、2020年)
「公取委・経産省公表の『指針』を踏まえたスタートアップとの事業連携における各種契約上の留意事項」(中央経済社、2021年)

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