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予想外の情報漏えいをどう防ぐ? スタートアップとのNDAの定め方スタートアップとオープンイノベーション〜契約成功の秘訣〜(3)(1/3 ページ)

本連載では大手企業とスタートアップのオープンイノベーションを数多く支援してきた弁護士が、スタートアップとのオープンイノベーションにおける取り組み方のポイントを紹介する。第3回はNDA締結において意識すべきポイントの内、前回解説していないものを取り上げる。

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 前回はスタートアップとのオープンイノベーションに取り組むにあたって必要になる、秘密保持契約書(以下、NDA)を締結する際の留意点の一部をご紹介しました。またその際、スタートアップとのオープンイノベーションがうまくいかない要因の1つとして、スタートアップの特性を無視して既存の契約書のひな型を使用することを取り上げて紹介しました。

⇒連載「スタートアップとオープンイノベーション〜契約成功の秘訣〜」バックナンバー

 オープンイノベーションを阻害する要因はこの他にも多数考えられます。連載第3回は、スタートアップとのNDA締結時における、残りの注意すべきポイントを解説します。

※なお、本記事における意見は、筆者の個人的な意見であり、所属団体や関与するプロジェクト等の意見を代表するものではないことを念のため付言します。

Need to know原則の重要性

 秘密保持義務を巡っては、まず、秘密保持義務が一方にのみ課されるのか(片務)、両当事者に課されるのか(双務)が問題となります。秘密情報が一方通行でしか提供されないのであれば片務でも問題はありません。

 ただし、「秘密情報を提供するのが一方の当事者に限られる」ことの正当性については、案件ごとに慎重に見極める必要があります。経済産業省・特許庁が発行した「スタートアップとの事業連携に関する指針」においては、取引上、スタートアップに対して優越的な地位にある連携事業者が、十分な協議もなく自社のNDAのひな型を押し付けるなど、一方的に、片務的なNDAの締結を要請する場合、スタートアップが今後の取引に与える影響を懸念して受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当な不利益を与えるおそれがあり、優越的地位の濫(らん)用(独占禁止法第2条第9項第5号)になりかねないと指摘しています。

 また、秘密保持義務にいわゆるNeed to know原則が導入されているかについても注意する必要があります。秘密情報の受領者が当該目的遂行のために必要な範囲でのみ当該秘密情報を社内関係者に共有する旨を定めることが重要です。Need to know原則が導入されていないと、情報が社内で不必要に広まりかねません。会社の規模が大きければ大きいほど、情報の目的外利用や流出のリスクが高まります。

 例えば、経済産業省・特許庁が公開した「モデル契約書(新素材分野)」は、Need to know原則を以下のように定めています。

秘密保持契約2条

第2条 受領者は、善良なる管理者が払うべき注意義務をもって秘密情報を管理し、その秘密を保持するものとし、開示者の事前の書面による承諾なしに第三者に対して開示等または漏えいしてはならない。

2 前項の定めにかかわらず、受領者は、秘密情報を、本目的のために必要な範囲のみにおいて、受領者の役員および従業員(以下「役員等」という。)に限り開示等できるものとする。

3 受領者は、前項に定める開示等に際して、役員等に対し、秘密情報の漏えい、滅失、毀損の防止等の安全管理が図られるよう必要かつ適切な監督を行い、その在職中および退職後も本契約に定める秘密保持義務を負わせるものとする。役員等による秘密情報の開示等、漏えい、本目的以外の目的での使用については、当該役員等が所属する受領者による秘密情報の開示等、漏えい、本目的以外の目的での使用と見なす。

※甲=スタートアップ、乙=事業会社、以下同。

※一部改変。

 なお、情報受領者にグループ会社がいる場合には、グループ会社をいかに定義するか※1、また、どこまでのグループ会社に対する秘密情報の共有を許すか否かが問題となります。

※1:例えば、財務諸表等規則8条や会社計算規則2条3項の定義を使用することも考えられる。

秘密保持義務の例外

 秘密情報に含まれるものの、法令に基づく開示要求などに対しての開示は、秘密保持義務が例外的に(部分的に)課されないとする定めを設けることが一般的です。例えば、以下のような規定があり得ます。

前各項の定めにかかわらず、受領者は、次の各号に定める場合、当該秘密情報を開示等することができるものとする。ただし、受領者は、1号または2号に該当する場合には可能な限り事前に開示者に通知し、かかる開示等を行った場合には、その旨を遅滞なく開示者に対して通知するものとする。

(1)法令の定めに基づき開示等すべき場合

(2)裁判所の命令、監督官公庁またはその他法令・規則の定めに従った要求がある場合

受領者が、弁護士、公認会計士、税理士、司法書士等、秘密保持義務を法律上負担する者に相談する必要がある場合

(3)法令の定めに基づき開示等すべき場合

(4)裁判所の命令、監督官公庁またはその他法令・規則の定めに従った要求がある場合

(5)受領者が、弁護士、公認会計士、税理士、司法書士等、秘密保持義務を法律上負担する者に相談する必要がある場合

 また、上述のように取引に関する交渉の存在や内容を秘密情報に含めた場合、片方の(契約)当事者が、投資家やユーザーに対する効果的なPR材料とするべく、相手方会社とアライアンスを締結に向けた検討を開始した事実を迅速に公開したいと望むことがあります。この場合、取引事実を相手方の事前の同意なしに公表できるとする条項を設けておきます※2。これによって相手方会社の社内決裁などの関係で、「発表すべきタイミングに発表できない」というリスクを回避できます。

※2:経済産業省「モデル契約書 ver1.0 秘密保持契約書(新素材)」2条6項など

 この点、モデル契約書(新素材分野)では以下のように定めています。

秘密保持契約2条6項

本条第1項ないし第3項の定めにかかわらず、甲および乙は、相手方の事前の承諾なく、以下の事実を第三者に公表することができるものとする。

 甲乙間で、甲が開発した放熱特性を有する新規素材αを用いた共同研究の検討が開始された事実

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