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取引事実を公表したがるスタートアップ、どんなNDAを結ぶべきなのかスタートアップとオープンイノベーション〜契約成功の秘訣〜(2)(1/4 ページ)

本連載では大手企業とスタートアップのオープンイノベーションを数多く支援してきた弁護士が、スタートアップとのオープンイノベーションにおける取り組み方のポイントを紹介する。第2回はスタートアップとのNDAの締結方法において意識すべきポイントを具体的に解説する。

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 連載第1回では、スタートアップとのオープンイノベーションの具体的な問題点をいくつかご紹介した上で、より良いオープンイノベーションの実現を目指す上で必要となる基本的な考え方について解説しました。

⇒連載「スタートアップとオープンイノベーション〜契約成功の秘訣〜」バックナンバー

 第2回である今回と第3回の次回は、スタートアップとのオープンイノベーションに取り組むにあたって秘密保持契約書(以下、NDA)を締結する際の留意点を、2回に分けてご紹介します。スタートアップとのオープンイノベーションがうまくいかない要因の1つとしてよく指摘されるのが、既存のNDAのひな型を法務部のチェックなしに、または、法務部のチェックを受けつつもスタートアップの特性を無視して使用することです。この点を解説していきたいと思います。

※本記事における意見は、筆者の個人的な意見であり、所属団体や関与するプロジェクト等の意見を代表するものではないことを念のため付言します。

NDAはなぜ必要か

 まずはNDA一般の重要性と、企業における情報管理の必要性について説明します。

 秘密保持契約などで契約の相手方に秘密保持義務を課しさえすれば、自社の重要な営業秘密を開示しても良いと考える会社も少なからず存在します。ただ、情報ガバナンスの観点からは慎重に検討すべきでしょう。秘密保持義務を課しても、相手方が秘密情報を第三者に開示する、あるいは本来の目的外での使用をするといったケースが想定されます。目的外使用はその事実が外部に露見しにくいため、秘密保持義務違反を立証することが困難な場合もあります。

 営業秘密に将来的に特許出願を予定している内容が含まれる場合も注意が必要です。契約先が営業秘密を、秘密保持義務を課すことなく第三者に開示した場合、当該営業秘密が「公知」されたという扱いになる可能性もあります。この場合、特許出願予定の内容が新規性を失い、特許性を喪失するおそれもあります(特許法29条1項1号参照)。

 そのため自社の秘密情報については、少なくとも(1)秘密保持契約なしで開示できる情報(2)秘密保持契約締結後に開示できる情報(3)いかなる状況であっても開示しない情報の3つに分類して、それぞれで要求されるレベルでの情報管理を行うことが望ましいでしょう。

「優越的地位の濫用」と見なされるケースも

 当然ですが、NDA締結の重要性はスタートアップとのオープンイノベーションにおいても変わりません。しかし、いくつかの事例ではNDA締結を巡るトラブルも発生しているようです。


スタートアップが被った不利益が「優越的地位の濫(らん)用」の結果と見なされる可能性も

 経済産業省・特許庁が発行した「スタートアップとの事業連携に関する指針(以下、事業連携指針)」では、スタートアップに対して取引上の優越的な地位にある連携事業者が、正当な理由※1なく、スタートアップに対してNDAを締結しないまま営業秘密の無償開示などを要請するケースの存在が示唆されています。事業連携指針でも指摘されていますが、「経営が厳しい中、いまだ需要が十分に顕在化していない分野等において事業を展開するスタートアップの特性等により、スタートアップにとって連携事業者を他の事業者に変更することが困難であるような場合」(事業連携指針より引用)、スタートアップが取引に与える影響を考慮して受け入れざるを得ない可能性があります。

※1:事業連携指針では、「営業秘密が事業連携において提供されるべき必要不可欠なものであって、その対価がスタートアップへの当該営業秘密に係る支払以外の支払に反映されているなど」(事業連携指針より引用)の場合が正当な理由に該当するとしている。

 事業連携指針では、こうしたケースは正常な商慣習に照らしてスタートアップに不当な不利益を与えるおそれがあり、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号)※2として問題化し得ると指摘しています。このためスタートアップとオープンイノベーションを実施して情報を受領する企業側も、受け取る情報の種類や受け取りの条件、契約締結との先後関係などに留意する必要があります。

※2:事業連携指針において、「優越的地位の濫(らん)用として独占禁止法上問題となるのは、連携事業者の取引上の地位がスタートアップに優越していること(スタートアップが取引先である連携事業者との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、連携事業者がスタートアップにとって著しく不利益な要請等を行っても、スタートアップがこれを受け入れざるを得ないような場合)とともに、公正な競争を阻害するおそれ(スタートアップの自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに、スタートアップはその競争者との関係において競争上不利となる一方で、連携事業者はその競争者との関係において競争上有利となるおそれ)が生じることが前提となる」との指摘があることに留意されたい。

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