検索
連載

共同研究の成果物をスタートアップに単独帰属するとWIN-WINになれる理由スタートアップとオープンイノベーション〜契約成功の秘訣〜(5)(3/4 ページ)

本連載では大手企業とスタートアップのオープンイノベーションを数多く支援してきた弁護士が、スタートアップとのオープンイノベーションにおける取り組み方のポイントを紹介する。第5回は共同研究開発契約をテーマに、締結時の留意点を前後編に分けて解説したい。

Share
Tweet
LINE
Hatena

費用負担の割合設定はどうすべきか

 技術検証を行う際の費用を誰がどの割合で負担するかも問題です。技術検証の開始段階では発生する費用の種別や総額の金額感が不透明な場合もあります。このため、いずれが費用を負担するかの原則を定めつつ、一定額を超える部分は協議の上、負担者や負担割合を定める必要があります。

(例)

第●条

 本検証の実行に際して生じる費用は乙の負担とする。ただし、費用の総額が●円を超える場合には、当該部分の費用負担者及びその負担割合について、甲乙協議の上定めるものとする。

専用実施権の独占は問題化するおそれ

 スタートアップに単独で特許権を帰属させる場合、事業会社側には無償の通常実施権を設定する必要性は高いといえるでしょう。しかし、この実施権を、専用実施権や独占的通常実施権などで独占することは問題です。スタートアップが他企業と連携する際に特許発明の実施許諾(ライセンス)を付与できない事態になりかねず、スタートアップにとって事業リスクとなりかねません※4

※4:専用実施権の場合、特許権者たるスタートアップが特許発明を実施できなくなるため(特許法68条ただし書)、回避したい。

 一方で、スタートアップが第三者に自由にライセンスや販売が行えるようにしてしまうと、事業会社側も自社のコンペティターに成果物を使用されるリスクがあります。このため、一定の制限を設けなければなりません。

 1つの解決策として、事業会社に特定領域における一定期間の独占的通常実施権※5を設定し、スタートアップには当該領域以外で自由に実施させるという形をとるというのもあり得ます。

※5:条件設定に際しては、独禁法に違反しないよう、留意されたい(「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」など参照)。

 この点と関連して、事業連携指針には、連携事業者が、共同研究の成果であるノウハウなどの秘密性を保持するために必要な場合に、取引の相手方であるスタートアップに対し、合理的期間に限って成果に基づく商品、役務の販売先を特定の事業者に制限することは、原則として独占禁止法上問題にならないとの指摘があります。上記の解決策についても、この指摘は同様にあてはまるものと考えられます。

 ただし、事業連携指針には、「市場における有力な事業者※6である連携事業者が、取引の相手方であるスタートアップに対し、例えば、合理的な期間に限らず、共同研究の成果に基づく商品・役務の販売先を制限したり、共同研究の経験を生かして新たに開発した成果に基づく商品・役務の販売先を制限したりすることは、それによって市場閉鎖効果※7が生じるおそれがある場合には、排他条件付取引(一般指定第11項)または拘束条件付取引(一般指定第12項)として問題となるおそれがある」との指摘もあります。制限する期間や範囲については、慎重な検討が求められます。

※6:市場における有力な事業者については、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」の第1部3(4)に記載の通りである。

※7:市場閉鎖効果については、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」の第1部の3(2)アに記載の通りである。

 なお、スタートアップは、事業会社が損益分岐点や法的リスクの観点から参入できない市場にも積極的に参入することもあるため、事業会社にとっての機会損失が想定できない場合も多くあります。そのため、上記の条件でも、事業会社に実質的なデメリットがないケースも少なくないでしょう。この点、モデル契約書は以下のように定めています(共同研究開発契約7条7項、同13条)。

第7条7項 甲は、乙に対し、下記の条件で乙が本発明を実施することを許諾する。

ライセンスの対象:本製品の設計・製造・販売行為

ライセンスの種類:本契約締結後●年間は独占的通常実施権を設定し、その後は非独占的通常実施権を設定する。ただし、本契約締結後●年間を経過する前であっても、正当な理由なく乙が本発明を1年間実施しない場合には当該期間の満了時より、または、乙が本発明を乙の事業に実施しないことを決定した場合には当該決定時より、非独占的通常実施権を設定する。

ライセンス期間 :本契約締結日〜●年●月●日は独占的ライセンス

         ●年●月●日〜本発明にかかる知的財産権の有効期間満了日までは非独占的ライセンス

サブライセンス :原則不可。ただし、[グループ会社名等]に対するサブライセンスは可能

ライセンス料  :無償

地理的範囲   :全世界

第13条 甲および乙は、本契約の期間中、相手方の文書による事前の同意を得ることなく、本製品と同一または類似の製品(本素材を配合した樹脂組成物からなる自動車用のライトカバーを含む。)について、本研究以外に独自に研究開発をしてはならず、かつ、第三者と共同開発をし、または第三者に開発を委託し、もしくは第三者から開発を受託してはならない。

 なお、上記の案は全てのビジネスモデルに当てはまるものではないことに注意してください。事業連携指針ではAI(人工知能)分野での例示がなされています。この例では「複数の会社からデータの提供を受けて生成したカスタマイズモデルを活用したサービスを、複数の事業会社に提供する」というビジネスモデルを事例にしています。この場合、成果物の利用条件を独占的な内容とすることはスタートアップ、連携事業者の双方にとって非合理的だとしています※8

※8:ある特定事業領域を事業会社が独占していて、高い収益が約束されており事業会社が高額な利用料をスタートアップに支払える場合など、ごく例外的なケースを除く。

 なぜなら、スタートアップの連携事業者ごとに別々の成果物が存在することになり、管理コストが大幅に増加するからです。増加コストはサービスの提供価格に転嫁され、結局事業会社が高額で利用することになる可能性があります。

 逆に、非独占的な利用条件であれば、スタートアップはカスタマイズモデルを用いた事業展開に制約がなくなり、事業拡大、収益拡大の可能性が高まります。管理コストも一定の範囲に抑えられるため、妥当な価格でサービスが利用できる可能性も高まります。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る