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共同研究の成果物をスタートアップに単独帰属するとWIN-WINになれる理由スタートアップとオープンイノベーション〜契約成功の秘訣〜(5)(2/4 ページ)

本連載では大手企業とスタートアップのオープンイノベーションを数多く支援してきた弁護士が、スタートアップとのオープンイノベーションにおける取り組み方のポイントを紹介する。第5回は共同研究開発契約をテーマに、締結時の留意点を前後編に分けて解説したい。

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単独帰属は回りまわって事業会社のメリットに

 共同研究開発において、成果物に関わる知的財産権が事業会社のみに帰属される例も少なくありません。

 しかし、スタートアップは大手企業ほどの資本力はないが、その代わりにアイデアや技術力で勝負する、といったスタイルの企業が多くあります。そのため、アイデアや技術力について、特許権などの権利を取得して事業戦略に活用することが、競業会社との競争や、投資家や取引先との交渉においては重要です。また、多くの会社とアライアンスを締結する中で、自社の強みに関わる特許を、特定のアライアンスの相手方企業に帰属すると、その他のアライアンスを進める際の障害になりかねません。これは、短期間で大きな成長を目指すに当たって大きなリスクになり得ます。

 事業会社にとっても共同研究開発の結果生じた成果物に関する知的財産権(特に特許権)については、できる限りスタートアップに単独帰属させた方が好ましいと思われます。スタートアップにより良いパートナーとして成長してもらえれば、オープンイノベーションの成功率を高め、自社利益の増大にも貢献します※2

※2:他方、例えば成果物に関する報告書などの著作権や協業に用いる商標権については、事業の遂行上、スタートアップに単独帰属させる必要性の低いケースが多いと考えられる。「知的財産権」とひとくくりにせず、知的財産権の種別に応じた取り扱いを検討すべきである。

 また、この点と関連して、事業会社側が研究開発の経費の多くを負担する場合に、実質的には共同研究契約ではなく、研究委託契約であるとの理解の下、研究の結果創出された全ての知的財産権は研究開発経費の負担側に帰属すべきという主張がなされることもあります。

 ただ、事業連携指針でも記載されていますが、研究開発の費用負担は「当該費用を負担していることが直ちに成果物の知的財産権の帰属主体となることを正当化するものではない」と見なされる可能性があります。また、「共同研究開発の結果生じた知的財産権の取得のための対価は、成果物創出への貢献度等を踏まえて定められることが重要である」とも記載しており、ある知的財産権を発明者以外が得るには、研究開発の費用負担以外で対価を支払う必要があるとしています。

 なお、スタートアップに知的財産権を単独帰属させる場合、「共同事業における収益を一定割合で分配する」などの条項を入れておくのも手です。特に、共同事業の展開先が、もともと事業会社が自社単独では進出できない市場をターゲットとしている場合は効果的です。自社単独では獲得できない利益を当該市場から一定程度獲得できますし、また、特許権をスタートアップに単独帰属させれば当該収入の増加も見込めます。単独帰属には事業会社にも利点があるのです。

 さらに、これまでの連載でも述べてきましたが、自社のプロダクト/サービスを利用しているなど自社事業とシナジーの高いスタートアップと共同研究開発を行う場合、スタートアップの成長が自社の事業の成長につながります。こうしたWin-Winの関係を構築して当該スタートアップに成長してもらえばもらうほど自社事業にもメリットが出てくることとなります。

一定のリスクヘッジも必要

 以下で述べるように、当該特許について適切なライセンスを設定すれば、スタートアップに特許権を単独帰属させても、事業会社による成果物の使用は確保できる以上、事業会社に特段の不利益はないものと考えられます。

 なお、スタートアップの事業がうまくいかず、スタートアップが会社を清算するなど、一定のメルクマールが発生した場合に当該特許権を事業会社に譲渡させる、などの条項を用意することはリスクヘッジとして必要でしょう。モデル契約書では次のように記載しています(共同研究開発契約7条6項、同16条1項2号3号)。

第7条6項 本発明にかかる知的財産権は、甲に帰属する。ただし、甲が本契約16条※31項2号および3号のいずれかに該当した場合には、乙は、甲に対し、当該知的財産権を乙または乙の指定する第三者に対して無償で譲渡することを求めることができる。

※編集注:本発明=共同研究開発の結果生じた発明
※3:原文は14条となっているが、正しくは16条である。

第16条 甲または乙は、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。

(中略)

(2)支払いの停止があった場合、または競売、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立てがあった場合

(3)手形交換所の取引停止処分を受けた場合

 なお、スタートアップ側との十分な検討を行うことなく、成果物に関する特許出願の制限を設けることは優越的地位の濫用に該当する危険性がありますのでご注意ください。

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