共同研究の成果物をスタートアップに単独帰属するとWIN-WINになれる理由:スタートアップとオープンイノベーション〜契約成功の秘訣〜(5)(1/4 ページ)
本連載では大手企業とスタートアップのオープンイノベーションを数多く支援してきた弁護士が、スタートアップとのオープンイノベーションにおける取り組み方のポイントを紹介する。第5回は共同研究開発契約をテーマに、締結時の留意点を前後編に分けて解説したい。
前回は、スタートアップとのオープンイノベーションに当たってPoC(Proof of Concept)契約を締結する際の留意点をご紹介しました。連載第5回である今回は、スタートアップとのオープンイノベーションに際して締結する共同研究開発契約をテーマに、締結時の留意点を前後編に分けて解説します。
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※なお、本記事における意見は、筆者の個人的な意見であり、所属団体や関与するプロジェクト等の意見を代表するものではないことを念のため付言します。
共同研究開発の目的はしっかり定めるべき
共同研究開発の目的に関する条項は契約全体の中ではやや軽視されがちですが、実際には大きな重要性を持ちます。例えば、以下のような意義が考えられるでしょう。
(1)当事者の認識合わせ
(2)秘密情報の目的内使用の範囲を画する
(3)(データの提供がある場合)データの目的内使用の範囲を画する
(4)(第三者との共同研究開発を制限する場合)制限の範囲を画する
(1)の観点からは、できる限り目的を具体的に記載することが望ましいといえます。一方で、具体化は秘密情報やデータの目的内使用の範囲や、また、第三者との共同研究開発の範囲を限定することにつながりかねないことには注意が必要です。つまり(1)の観点と(2)(3)(4)の各観点のバランスをどのようにとっていくかを考える必要があります。
以上について、経済産業省/特許庁が公開するモデル契約書(新素材分野)は、次のように定めています(共同研究開発契約3条)。
第1条 甲および乙は、共同して下記の研究開発(以下「本研究」という。)を行う。
記
(1)本研究のテーマ:甲が開発した技術を適用した、窒化アルミニウムを主体とする高熱伝導性を有するウイスカーおよび当該ウイスカーを配合した樹脂組成物(以下「本素材」という。)を成形してなるヘッドライトカバー(以下「本製品」という。)の開発
(2)本研究の目的(以下「本目的」という):本製品の開発および製品化
両社の役割を明確する
共同研究開発の開始前、あるいは開始直後の段階では、今後発生する作業も見通しにくい状況です。企業同士で詳細な役割分担を決めることが困難な場合も少なくありません。実態として両社が共同研究に従事しているにもかかわらず、「優越的地位の濫用※1」に該当すると判断されるリスクを回避するためにも、両者の役割分担を具体的に定めておく必要があります。最低限、役割分担の枠組みを大まかに規定することが望ましいでしょう。
※1:正当な理由がないのに、スタートアップに共同研究の成果の全部または一部の無償提供などを要請する場合、スタートアップが共同研究契約の打ち切りなど今後の取引に与える影響を懸念して要請を受け入れざるを得ない場合がこれに当たる。「スタートアップとの事業連携に関する指針(以下、「事業連携指針」)」は正当な理由の例示として、「貢献度に見合ったその対価がスタートアップへの当該知的財産権にかかわる支払い以外の支払に反映されている」場合を挙げる。
なお、モデル契約書(新素材分野)では、役割分担の条項を以下のように例示しています(共同研究開発契約3条)。
第3条 甲および乙は、本契約に規定の諸条件に従い、本研究のテーマについて、次に掲げる分担に基づき本研究を誠実に実施しなければならない。
(1)乙の担当:本素材を用いた本製品の設計、製作および本製品の特性の評価
(2)甲の担当:技術者の派遣。乙の前号の評価の結果を基にした、本素材の表面処理の調整および配合量の検討。本製品の特性の評価への立会い
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