キヤノンの320万画素SPADセンサーが9年ぶりの快挙、独自画素構造に2つの工夫:組み込み開発ニュース(2/2 ページ)
キヤノンが、暗所でも高感度に撮像が可能なSPADセンサーで、フルHD(約207万画素)を超えて「世界最高」(同社)となる320万画素を達成したと発表。従来発表の100万画素SPADセンサーから3倍以上の高画素化を実現するとともに、カラーフィルターを用いたカラー撮影も可能であり、センサーサイズも13.2×9.9mmと小型に抑えた。
独自の画素構造の採用で高画素化の壁を打ち破る
ただし、SPADセンサーは高画素化が困難という課題があった。SPADセンサーの各画素において、入ってくる光を信号として検出できる面積(感度領域)が小さく、高画素化のために画素サイズを小さくすると、感度領域がいっそう小さくなり、結果として入ってくる光子が少なくなるからだ。さらに、一般的なSPADセンサーの構造では、隣り合う画素の感度領域の間に一定の距離を保つ必要があるため、1つの画素に光が入ってくる割合を示す開口率は、画素サイズを小さくするほど低下してしまい、電気信号の検出が難しくなるという課題もあった。
今回発表した320万画素SPADセンサーは、この高画素化によって感度が低下するという課題を解決する、独自の画素構造を採用した。従来のSPADセンサーでは感度領域が画素の一部分にとどまるのに対して、この画素構造は画素全体に感度領域が広がるため光子を効率よく集められる。これによって光子の利用効率がほぼ100%となり、6.39μmピッチという画素の微細化(=高画素化)と高感度の両立を実現することができた。
キヤノンは2020年6月に100万画素のSPADセンサーを発表している。320万画素SPADセンサーは、この100万画素SPADセンサーで採用した画素構造をさらに改良することで実現した。
今回採用した画素構造は「近赤外線域の感度」「低ノイズ」「超高速検出(時間分解能)と高感度の両立」という3つの特徴がある。
まず「近赤外線域の感度」では、光をより多く捉えることができると値が大きくなるPDE(Photon Detection Efficiency:光子検出効率)が、100万画素SPADセンサーと比べて可視光線域から近赤外線域にかけて大幅に向上した。具体的には、波長850nmのPDEが従来比約2倍となる32.8%、波長940nmのPDEは従来の一桁%から24.4%に向上している。これによって、近赤外線が持つ物質を透過しやすい性質を利用して、霧などで視界のよくない状況下での監視や距離測定、産業用の異物検査などで効果を発揮させられるようになるという。
次の「低ノイズ」では、ノイズが少なければ値も小さくなるDCR(Dark Count Rate:ダークカウントレート)を抑えようとすると、感度を示すPDEが減少してしまうというトレードオフの関係を打破した。320万画素SPADセンサーは、DCRを抑えつつ、PDEは69.4%という高い値を実現している。
そして「超高速検出(時間分解能)と高感度の両立」でも、どのくらいの時間で光子が検出可能かを示す時間分解能を短くしようとするとPDEが減少してしまうというトレードオフの関係を打破した。320万画素SPADセンサーは、100ピコ秒(1ピコ秒は1兆分の1秒)の時間分解能を示しながら、近赤外線域である波長940nmでのPDEは24.4%と高い値を示している。「今回、IEDM 2021のLate News Papersに採択されたのは、この超高速検出と高感度の両立が評価されたのではないかと考えている」(キヤノンの開発担当者)という。
これら3つの特徴は、今回開発した独自の画素構造に2つの工夫を凝らすことで実現した。1つは、画素となるフォトダイオードに光子が入射することによって発生する電荷をロスすることなく集められる電荷収集型(Charge Focusing)の画素構造である。もう1つは、マイクロレンズによって画素に入射させた光を画素構造内で減衰させずに全て取り込むための光閉じ込め(Light Trapping)技術になる。各画素を隔てる素子分離構造(DTI)の壁面やフォトダイオードの裏側などにメタルリフレクターを形成することで実現した。
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