ソニーが車載LiDAR向けSPADセンサーを商品化、距離300mの検知精度は15cm:組み込み開発ニュース
ソニーセミコンダクタソリューションズが車載LiDAR向けの積層型直接ToF(dToF)方式のSPAD距離センサー「IMX459」を商品化。10μm角の微細なSPAD画素と測距処理回路を1チップ化し、1/2.9型と小型ながら高精度かつ高速な測距を実現した。また、車載LiDAR向けのSPAD画素を用いた積層型距離センサーを商品化したのは「業界初」(同社)だという。
ソニーセミコンダクタソリューションズは2021年9月6日、車載LiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)向けの積層型直接ToF(dToF:Direct Time of Flight)方式のSPAD(Single Photon Avalanche Diode)距離センサー「IMX459」を商品化したと発表した。10μm角の微細なSPAD画素と測距処理回路を1チップ化し、1/2.9型と小型ながら高精度かつ高速な測距を実現した。また、車載LiDAR向けのSPAD画素を用いた積層型距離センサーを商品化したのは「業界初」(同社)だという。2022年3月にサンプル出荷を始める予定。サンプル価格(税込み)は1万5000円。
SPAD画素は、LiDARの測距方式のうち、光源から対象物に反射して戻ってくるまでの光の飛行時間(時間差)を検出することで距離を測定するdToF方式の受光素子の一つとして用いられている。IMX459では、ソニーがCMOSイメージセンサー開発で培ってきた裏面照射型、積層型、チップ電極であるCu(銅)パッド同士を接続するCu-Cu(カッパー・カッパー)接続などの技術を活用することにより、SPAD画素と測距処理回路を1チップ化する独自のデバイス構造を採用した。これにより、10μm角の微細な画素サイズを実現し、1/2.9型で有効約10万画素となる小型・高解像度に加え、光子検出の高効率化と応答性能の向上を図り、遠距離から近距離までを15cm間隔で高精度かつ高速に測距が可能となった。
裏面照射型のSPAD画素を用いた上部の画素チップと、測距処理回路などを搭載した下部のロジックチップは、Cu-Cu接続を用いて積層されており、1画素ごとに導通している。画素部の下側に回路部を配置することで、10μm角の微細な画素サイズながら、画素当たりに光入射面側からみた開口部分の割合である開口率を維持した。また、光の入射面に凹凸を設けて入射光を回折させることで吸収率も高めている。
これらの工夫により、車載LiDARのレーザー光源として広く普及している905nmの波長に対して24%という高い光子検出効率を実現した。これにより、例えば、遠方にある反射率の低い対象物でも、高い解像度と距離分解能で検知することができる。また、画素ごとにCu-Cu接続した回路部にアクティブリチャージ回路を搭載して、一光子当たりの応答速度を通常時約6nsに高めている。
また、車載向けで求められる信頼性や機能安全規格への準拠などにも対応する。自動車向け電子部品の信頼性試験基準であるAEC-Q100では、動作温度範囲が−40〜105℃のGrade2を取得予定だ。さらに、自動車向け機能安全規格のISO 26262では、ISO 26262に準拠した開発プロセスを導入するとともに、安全要求レベルであるASILでASIL-B(D)に対応するという。
IMX459の主な仕様は以下の通り。有効画素数は597×168の約10万画素で、イメージサイズは対角6.25mmの1/2.9型。推奨光源波長は905nm、SPADユニットセルサイズは10.08×10.08μm、ToF画素単位となるエレメントサイズは3×3。光子検出効率は24%、応答速度は約6ns。電源電圧は、SPAD降伏電圧が−20.5V、同過剰電圧が3.3V、アナログが3.3V、デジタルが1.1V、インタフェースが1.8V。インタフェースはMIPI CS-2のシリアル出力(4レーン/2レーン)。パッケージサイズは15.65×15.35mm。最大検知距離は300mとなっており、300m測距時の距離精度は3画素×3画素の加算モードで30cm、6画素×6画素の加算モードで15cm。
また、ソニーセミコンダクタソリューションズは、IMX459を搭載した、ポリゴンミラーを用いるメカニカルスキャン方式のLiDARをリファレンスデザインとして開発し、顧客やパートナーに向けて提供を開始する。これにより、顧客やパートナーのLiDAR開発における工数削減や選定デバイスの最適化によるコスト削減に貢献できるとしている。
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