盛り上がる「リニア搬送システム」、その期待と用途:製造現場 先進技術解説(2/2 ページ)
「リニア搬送システム」が盛り上がりを見せている。制御技術の進化により、従来に比べて高速、高精度で個々の可動子を制御できることで、新たなモノづくりの実現ができるとされ、国内でもメーカーが相次いでいる。その期待と用途について解説する。
リニア搬送システムが実現する新たな進化の姿
リニア搬送システムとして、国内向けでは早期から提案を行ってきているがドイツのベッコフオートメーションである。同社はリニア搬送システム「XTS(eXtended Transport System)」の提案を2014年に開始。さまざまな導入実績を生み出している。さらに「ハードウェアやソフトウェア、磁力など、それぞれの専門家を抱え、独自で技術への深い理解のもとで開発を進めていることが特徴だ」(ベッコフオートメーション創業者で社長のハンス・ベッコフ氏)とし、新たな新技術を次々に投入している。
ベッコフオートメーションが新たに発表したXTSのノーケーブルテクノロジー。赤丸の可動子に専用のモーターモジュールと関連のエレクトロニクス技術を搭載したことで、可動子上でさまざまなモーションモージュールの稼働が可能となる[クリックで拡大] 出所:ベッコフオートメーション
2021年12月に発表したのが、可動子に対し非接触給電とリアルタイムデータ通信を実現する「No Cable Technology(NCT、ノーケーブルテクノロジー)」である。これは、可動子に対し非接触で電力とデータ通信を供給できる仕組みを実現することで、可動子上で独立したモーション製品を作動させられるという技術だ。XTSシステムでNCT技術を採用しさらに専用のモーターモジュールと関連のエレクトロニクス技術を可動子に追加することで実現している。これにより、可動子上にセンサーやアクチュエーターを搭載し製品の加工や検査を行うことができるようになる。
また、これらのリニア搬送システムの考え方をさらに進化させた浮遊型駆動によるリニア搬送システム「XPlanar」を2018年に発表。2020年から国内での提案も開始している。「XPlanar」は、電磁力により浮遊させた可動部を、平面タイルの上に浮かべて自由に動かすリニア搬送システムだ。浮遊する可動部は2Gの加速度、4m/sの速度、±50μmの精度で位置再現できる。非接触であるため、摩耗や汚染物質の排出なども抑えられ、食品や飲料、医療機器など清浄な環境が求められる用途にも適用可能だ。
基盤となる平面タイルは240×240×67mmで任意の形状に配置が可能。タイル内にはコイルと電子機器が組み込まれており、これらで発生する電磁力を制御することで可動部を動かす。可動子はXY軸方向だけでなく、5mmまでの持ち上げと下降機能なども持つ。液体などを載せた場合最大5度まで傾けることも可能だ。同社では、新たな用途開拓を進め、「浮遊型搬送」の持つ価値を広げていく方針だ。
既存の製品設備との組み合わせで新たな価値を
「アダプティブマシン」として、リニア搬送システムを既存の製造設備と組み合わせることで、生産ライン全体を1つのシステムとして効率化するシステムを訴えているのが、オーストリアのB&Rグループだ。リニア搬送システムとマシンビジョン、ロボット技術、デジタルツインなどを組み合わせて、受注状況に合わせた柔軟で迅速な段取り替えなどを実現し、マスカスタマイゼーションを可能にするというものである。
その核として訴えているのがリニア搬送システムである。「リニア搬送システムはリニアモーターと電気制御技術、それをコントロールするプログラムなどにより、高速、高精度で複雑な搬送が可能となる。プログラム次第では柔軟性と生産性を両立させることが可能だ。特に生産品種の切り替えが必要な業種では効果を発揮する」(B&R(日本法人)代表取締役の小野雅史氏)。
また、B&Rもベッコフオートメーションと同様、磁気浮上式技術を活用したリニア搬送システムも展開しており、新たな用途開拓に力を入れているという。
ここまで見てきたように、リニア搬送システムは国内でさまざまな参入企業からの製品が投入されてきただけでなく、新たな技術の採用が進み、まだまだ進化の過程だ。搬送工程における自由度の向上はマスカスタマイゼーション実現の大きなポイントだとされているが、そのためにもリニア搬送システムの新たな進化への期待が高まっているといえる。
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