原価の見える化と共有が“稼ぐ力”の基礎を作る、部門間情報のつなげ方:モノづくり革新のためのPLMと原価企画(5)(3/3 ページ)
本連載では“品質”と“コスト”を両立したモノづくりを実現するDX戦略を解説する。第5回は製造業の“稼ぐ力”を育てる上で重要になる、原価の見える化を、実際の事例を取り上げて紹介していこう。
製品事業力の見える化を“稼ぐ力”につなげる
異業種からの参入や新興国企業の台頭など、競合の多様化と国際化により、製品ラインアップならびに売価やコスト構造も多様化している。顧客のニーズの多様化と国際化も進む一方である。技術革新も著しい。新技術の取り込みも市場競争を勝ち抜くためには必須である。
モノづくり企業は利益を上げて、新技術や新事業、そして新製品への投資することが必要である。この利益は、財務会計の会計年度内の見掛けの損益ではなく、投資した分をしっかり回収して、その上で手元に残る資金のことだ。その累積収益こそが、モノづくり企業の“稼ぐ力”である。
投資と回収の見える化、すなわち製品事業力の見える化を行い、変化の激しい市場ニーズやシーズに対応していくための新しい競争力を獲得するさらなる投資を、的確に判断して積極的に行い、”稼ぐ力”を高めていく。それにはプロダクト損益管理によって、その経営判断を迅速に合理的に行えるようにしなければならない。
モノづくりの全部門で活用できる設計製造情報
モノづくりに必要な各種情報を一元管理して、モノづくりに関わる全ての部門でその情報を活用できるようにすること、これが設計製造連携の本質だ。中でも重要なのが、資産情報である。設備や治具や工具などの情報をリスト化し、加工条件の上限下限などの制約をデータ化して、いつでも参照できるようにしておく。設計に対しての製造制約やコスト情報、コストファクターの見える化は、この情報に基づいて行われる。
資産情報がリスト化されたBOP情報とE-BOMならびにM-BOM(製造部品表)の情報を連携し、SCM(サプライチェーンマネジメント)/ERPシステムやMES(製造実行システム)、IoT(モノのインターネット)情報とも連携して一元管理する。これによってモノづくりの各部門においてさまざまな活用効果を得られる。
購買見積の仕様情報や見積条件、過去のトラブル情報、クレーム情報、設備稼働実績、保全実績の情報なども、モノづくりに必要な情報であり、統合して一元管理すべきデータである。改善や変革のポイントを探る、絞る、コストファクターを確認する段階においては、大まかなくくりでの情報があればよいが、具体的な改善策やコスト検討を行うには具体的な明細情報が必要となる。これらの基幹周辺業務についてもデジタル化を進め、その情報が基幹システムとPLMシステムの設計製造情報に連携して、改善やコストの検討に必要な前提情報としてすぐに参照できる状態にすることが肝要である。
筆者プロフィール
ビジネスエンジニアリング株式会社
プロダクト事業本部 商品開発本部 カスタマーサクセス推進部 部長
伊与田 克宏
1997年大手エンジニアリング会社に入社。
2000年より東洋ビジネスエンジニアリング株式会社(現ビジネスエンジニアリング)にて、電機・機械・重工メーカーなどの製造業の顧客向けに、設計と製造の連携を含む業務改革構想ならびにシステム化企画、ERPシステム導入のプロジェクトを数多く手がける。
その後、販売・生産・原価管理システム「mcframe」の開発ならびに導入に従事するとともに、200社の製造業会員を有する「mcframeユーザ会:MCUG」にて製品開発元として各社の課題解決に尽力している。
2015年より設計・製造・原価連携ソリューションの企画と開発に携わる。
著書に「儲かるモノづくりのためのPLMと原価企画」(東洋経済新報社)。
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