ERPが導く“グローバル経営”への道筋、国内製造業が目指すべきDXの在り方:製造IT導入事例
PTCジャパンは2021年3月4日、“PLMプラットフォームで実現する製造業のためのDX(デジタルトランスフォーメーション)”をテーマとするオンラインイベント「PLM Forum 2021 Spring」を開催した。本稿では、ERP導入を通じて国内外全社での業務標準化を目指す荏原製作所の講演を取り上げる。
PTCジャパンは2021年3月4日、“PLMプラットフォームで実現する製造業のためのDX(デジタルトランスフォーメーション)”をテーマに、製造業各社が取り組むDXの事例などを紹介するオンラインイベント「PLM Forum 2021 Spring」を開催した。本稿では、ERP(統合基幹業務システム)導入を通じて国内外全社での業務標準化を目指す荏原製作所の講演を取り上げて紹介する。
“ツール”としてのDX
荏原製作所はポンプやコンプレッサーなどの開発・製造を通じた風水力事業や、廃棄物焼却プラントなど環境プラント事業を展開するグローバル企業である。同社は現在、最適な経営資源配分を通じて“筋肉質”な経営体制を実現するための「E-Vision2030 リソース戦略」を展開中だ。同戦略を支える柱の1つとして掲げるのが、製品やサービスのDXを通じたビジネスモデル変革である。同社はこれを「経営資本の強化」と位置付けて推進する。
荏原製作所 執行役 情報通信統括部長の小和瀬浩之氏は「当社はDXをゴールではなく、製品やビジネスモデルの改革を進めるツールとして捉えている。他企業と比べると取り組みが具体的で、事業計画そのものにもしっかりと組み込んでいる」と説明する。
DXの具体的な取り組みとしては、製品やサービス、ビジネスモデルのグローバル変革を進める「攻めのDX」と、ERPやタレントマネジメントシステムなどを駆使して情報インフラを整備する「守りのDX」の2軸がある。VR(仮想現実)/AR(拡張現実)技術によるリモート開発環境の整備や、深層学習などAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)技術を活用して作業効率を高める取り組みも進める。AIについては、廃棄物焼却プラントに導入して燃焼効率を向上させた事例もある。
この他、設計分野についてはPTCの3D CADソフトウェア「Creo Parametric」を米国ペンシルバニア州のジュネット工場と千葉県の袖ケ浦工場で導入している。単に導入するだけではなく、パラメトリック設計を中核とする設計思想を取り入れたという。
「設計自動化を進める上では、3Dデータ化は必須条件だ。設計のリードタイム短縮だけではなく、受注工程など顧客接点にも好影響を与えている。また、袖ケ浦とジュネットの両工場でPTCのPLM(プロジェクトライフサイクルマネジメント)ソフトウェア『Windchill』を導入しており、PLMに蓄積された3Dデータを活用できるように取り組んでいる。設計した3Dデータは建設分野でBIM(Building Information Modeling)のデータとして活用できる可能性もあり、さまざまな展開が考えられる」(小和瀬氏)
ERPで「インターナショナル経営」から「グローバル経営」へ
小和瀬氏はDXに関する取り組みの中でもERP導入や運用に関する事例を中心に解説した。荏原製作所では現在、業務システムやプロセスがカンパニーごとに異なる状態で導入されており、全社的な経営状態の把握を阻む障壁の1つとなっているという。こうした状況を変革して全社的な業務標準化を進める必要があるが、その中で重要になるのがERPの導入だという。
また、小和瀬氏はERPの導入意義について、企業を「インターナショナル経営」から「グローバル経営」に転換させる上で必須だと強調する。「欧米のグローバル企業は2000年前後に既にERPの導入を済ませている。そこで生じたのが、インターナショナル経営からグローバル経営への転換だ。インターナショナル経営とは、国内外にあるグループ企業それぞれが、必要なファンクション全てを備えて集約しているという体制だ。一方で、グローバル経営は個別のリーガルエンティティは存在するものの、世界中の組織があたかも1つの企業体のように活動するというものだ。こうした転換を支えたのが、インターネットの出現やコンピュータなどのテクノロジーだ」(小和瀬氏)。
グローバル経営の実現はオペレーションの低コスト化や、ガバナンスや内部統制の強化、特定ポジションへの最適な人材登用につながる。荏原製作所はこのようなグローバル経営実現を目指して「ERP導入をゴールではなく手段と見なして施策を進めている」(小和瀬氏)という。現在はERPの導入や展開を促進する専門部隊として180人からなるCoE(Center of Excellence)体制を整えて、関係会社にロールアウトしている段階という。
「国内製造業では経営層が見るレポートと、その基となる現場データの距離が遠いいといわれている。現場がデータを入力、チェック、加工する手間がかかるためだ。一方で、ERPを導入すると経営が持っているデータと現場が持っているデータが一気通貫でつながる。グローバル経営は世界全体のデータが手に取るように分かり、現場の問題への原因追及を容易に行える。欧米の先進的な企業は既に実現している」(小和瀬氏)。
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