シーメンスヘルスケアが医療基盤「teamplay」で国内3社と協業、AIアプリを拡充:製造業IoT
シーメンスヘルスケアが国内で医療機器向けのAIアプリケーションを手掛けるAIメディカルサービス、エルピクセル、Splinkと提携すると発表。今後、これら3社のAIアプリケーションが、シーメンスヘルスケアの医療プラットフォーム「teamplay digital health platform」で利用できるようになる。
シーメンスヘルスケアは2021年11月12日、東京都内で会見を開き、国内で医療機器向けのAI(人工知能)アプリケーションを手掛けるAIメディカルサービス、エルピクセル、Splinkと提携すると発表した。今後、これら3社のAIアプリケーションが、シーメンスヘルスケアの医療プラットフォーム「teamplay digital health platform(以下、teamplay)」で利用できるようになる。
会見の登壇者。左から、シーメンスヘルスケア デジタルヘルス&SYNGO事業部 部長の狩野慎一郎氏、Splink 社長の青山裕紀氏、シーメンスヘルスケア 社長の森秀顕氏、AIメディカルサービス 代表取締役CEOの多田智裕氏、エルピクセル 代表取締役の島原佑基氏[クリックで拡大]
teamplayは、世界75カ国以上、4万2000以上の医療機関で利用されている医療プラットフォームだ。国内でも2018年から導入を開始し、約3年間で2100の医療機関が採用するなど急速に浸透しつつある。利用できるアプリケーションとしては、シーメンスヘルスケア製の検査パフォーマンス管理用7種とAI画像解析用4種の他、3社のアライアンスパートナーが開発した3種の合計14種だったが、これらに今回提携した3社のアプリケーションが加わることになる。
シーメンスヘルスケア 社長の森秀顕氏は「米国では3分の1の医療機関が施設間での患者情報を電子的に検索、送信、受信、統合できる状態にあるが、日本国内はこのような統計もなく、医療デジタル化の推進は各医療機関の取り組みに委ねられている状況だ。当社は、医療デジタル化の実現に向けてteamplayを提供しているが、当社1社だけで全てのニーズはカバーできない。国内の医療現場に即した技術開発を行っている企業とのパートナーシップが重要であり、今回の3社との提携はそのためのものだ。政府にも、保険点数の追加など政策的な支援を要請していきたいと考えている」と語る。
診療報酬がAIアプリケーションの国内普及の課題に
AIメディカルサービスが提供するのは内視鏡画像解析ソフトウェアである。同社は、ディープラーニングを用いた内視鏡AIの開発に取り組んでおり、その第一弾製品として、2021年8月に胃がん鑑別AIを医療機器製造販売承認申請している。承認されれば、AIを活用した胃領域の内視鏡診断支援システムとして世界初の事例になるという。AIメディカルサービス 代表取締役CEOの多田智裕氏は「胃がんは見つけるのが難しく、2割くらいの見逃しがあるといわれている。当社は国内100機関のデータを基に高精度の内視鏡AIを開発した」と語る。胃がん鑑別AIの他にも、胃がん検出AIや食道がん検出AIの開発も進めている所だ。
今回のシーメンスヘルスケアとの提携により、国内に加えてシンガポールに展開する準備も進めており「teamplayで世界へ進出したい」(多田氏)としている。
エルピクセルは、脳MRI画像から脳動脈瘤の検出をサポートする「EIRL Brain Aneurysm」を提供する。医師単独で読影した場合と比べ、EIRL Brain Aneurysmを併用した読影では約10%の感度向上が認められており、2019年10月に深層学習を活用した脳MRI分野のプログラム医療機器として国内初の薬事承認を取得。2021年6月には検出精度を向上させた新モデルをリリースしている。
EIRLシリーズとしても頭部と胸部向けで合計5製品が薬事承認を得ており、累計約200施設以上に導入されている。エルピクセル 代表取締役の島原佑基氏は「日本はCTやMRIなどの医用画像撮像装置の導入率が世界一である一方、人口当たりの放射線医数はOECD加盟国の中で最下位というギャップがある。このギャップを埋めるのに、EIRLシリーズのような医療AIソフトウェアが貢献できる」と強調する。
Splinkは、頭部MRI画像をAIで解析し、脳の中でも記憶や学習にかかわりの深い海馬領域の体積を測定・可視化する脳ドック用AIプログラム「Brain Life Imaging」を提供する。日本国内の認知症患者数は約675万人に上るが、専門医数は約2000人と少なく、その診断も医師の経験や勘による属人的なものとなっている。Brain Life Imagingは、AIによって脳の健康状態を見える化するとともに、受診者目線の分かりやすいレポートを届けることで認知症の予防や早期発見につなげられる。
Splink 社長の青山裕紀氏は「かつては不治の病だったがんが、技術や社会体制の変化で治療できる病気として捉えられるようになった。認知症への見方も同じように変わっていくだろう。アルツハイマー病の治療薬が米国で薬事承認されるなど技術が進化しているからこそ診断が重要であり、Brain Life Imagingを役立てられると考えている」と説明する。
3社のアプリケーションは、現在teamplay上で利用できるようにするための開発が進められているところで、利用開始時期は未定となっている。料金はサブスクリプションによる定期の利用料として支払うことになる。
これら医療プラットフォームで展開するAIアプリケーションの国内普及で課題になるのが診療報酬だ。現在、AIアプリケーションを含めたプログラム医療機器は診療報酬の対象となっていないことも多い。森氏は「グローバルで見ても日本の医用画像は教師データの質が高い。このことをエビデンスとして、国内のAIアプリケーションをteamplayで世界に広げていきたいと考えている。そのためにも診療報酬などによる手当をして国内で普及していく必要がある。このまま手をこまぬいていては、米国や中国に全て持っていかれてしまい、医療AIの後進国になりかねない」と述べている。
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