量子計算機より「はるかに安価」、GPU搭載PCで組み合わせ最適化を高速解決:量子コンピュータ
大日本印刷は2021年10月26日、GPUを搭載したPC上で組み合わせ最適化問題を高速で解決できる「DNPアニーリング・ソフトウェア」を開発したことを発表した。従来手法と比較して10倍の高速化を実現し、また量子計算機を用いるより低コストで問題解決が図れる可能性がある。
大日本印刷(DNP)は2021年10月26日、GPUを搭載したPC上で組み合わせ最適化問題を高速で解決できる「DNPアニーリング・ソフトウェア」を開発したことを発表した。従来手法と比較して10倍の高速化を実現しており、かつ、量子コンピュータなどを用いるより低コストでの問題解決が図れる可能性がある。
GPU搭載PCで組み合わせ最適化問題を解決可能に
組み合わせ最適化問題は膨大な選択肢からの最適解導出を目指すもので、交通の渋滞解消や経路最適化、企業の生産計画や人員配置の最適化、投資のポートフォリオ分析を進める上で重要である。ただ、課題の規模や選択肢の数次第で計算量が指数関数的に増加するため、解決には非常に高い計算能力を持つコンピュータが必要だ。こうしたコンピュータを扱うには膨大な設備投資や人的負荷が求められるため、導入、運用は容易ではない。
こうした課題を解決し得るのが、今回発表したアニーリング・ソフトウェアである。GPUを搭載したPC上で膨大なデータを高速処理して、4万変数までの組み合わせ最適化問題を解決できるようにする。従来手法を用いる場合と比べて、最適解発見までの処理速度を約10倍に高速化できる。DNPが同ソフトウェアを印刷工程の自動作成に活用したところ、これまで夕方から翌朝までかかった印刷工程の予定表作成業務を約1時間に短縮できたという。
同ソフトウェアの動作には、日常的な用途で求められる以上のメモリ容量やGPU性能を備えたPCが必要にはなる。ただ、量子コンピュータやスーパーコンピュータなど非常に高性能な計算機を活用するよりも「処理環境を簡易に構築できる」(同担当者)としている。
高速化の仕組みについてDNPは「一般的に量子アニーリングをソフトウェアで実行する場合、最適解の探索を目指して逐次的に処理を実行する。これに対してアニーリング・ソフトウェアは各種条件を変化させながらの同時並行的な処理実行を実現することで、高速で最適解の探索を行えるようになった」(同社担当者)と説明する。
アニーリング・ソフトウェアは、アルゴリズムが異なる「シミュレーテッドアニーリング」「パラレルテンパリング」「量子モンテカルロ」の3つの演算手法に対応している。課題に応じて手法を使い分けて最適解を求められることができ、また3手法を同時に用いて最適解を求めることも可能である。同ソフトウェアはPC上で運用できるため、既存のシステムやプログラムを代替するものとして導入しやすい。
DNPは現在、同ソフトウェアによって「組合せ最適化問題」を解決する受託業務サービスの提供を計画するとともに、2022年度内のソフトウェア販売開始を目指している。受託業務の提供価格は、案件によって異なるため正確には言えないものの、他社が提供する量子コンピュータ利用サービスなどと比較すると「コストははるかに安価になる」(同担当者)という。
サービスの用途としては、製造分野での生産予測や、物流/交通分野での配達業務の所用時間最小化、素材/材料分野の研究開発などでの活用を想定している。
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