日立がシリコン量子ビットの開発に向け前進、超伝導量子ビットを超えるか:量子コンピュータ(1/3 ページ)
日立製作所(以下、日立)が同社の量子コンピューティング技術について説明。古典コンピュータを用いてアニーリング型の量子コンピューティングを行う「CMOSアニーリング」は事業化の段階に入っている。米中で研究開発が進むゲート型についても、シリコン半導体技術をベースとする「シリコン量子ビット」の開発で一定の成果を得ているという。
日立製作所(以下、日立)は2021年9月14日、オンラインで会見を開き、同社が開発を進めている量子コンピューティング技術について説明した。2013年から研究開発をスタートした古典コンピュータを用いてアニーリング型の量子コンピューティングを行う「CMOSアニーリング」は2020年から事業化の段階に入っており、米国や中国で研究開発が進むゲート型についても、従来のシリコン半導体技術をベースとするシリコン量子ビットの製造プロセス「Q-CMOS」の開発で一定の成果を学会発表するなど、取り組みを加速させている。
社会イノベーション事業に必要な量子コンピュータとは
会見には、日立 研究開発グループ 基礎研究センタ 主管研究長 兼 日立京大ラボ長の水野弘之氏が登壇した。水野氏は「米国のGAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon.com、Microsoft)、IBMなどが、エッジやクラウドに用いるCPUの自社開発に注力するようになっている。これまでの水平分業から垂直統合へ移行しているわけだが、量子コンピューティングの技術開発にもその影響が出ており、特にGoogleの取り組みは広く知られているところだ」と語る。
日立も量子コンピューティング技術の開発を進めているが「これらグローバルの巨大IT企業とスタンスが異なる」(水野氏)という。これは、日立が注力する社会イノベーション事業における“コンピュータ”は、顧客にとってより良いソリューションの提供に役立つものである必要があり、そのためには現行の古典コンピュータと比較して圧倒的に高い価値を提供できなければ開発する意味は少ない。「量子コンピュータは、古典コンピュータでうまく扱えない大規模問題の解決が得意という特徴がある。このことを考えると、小規模の量子コンピュータを開発することは産業的にあまり意味がない」(同氏)という。
量子コンピュータが古典コンピュータと比べて大規模問題の解決が得意なのは、古典コンピュータの基になるビットが0か1のどちらかを示すのに対して、量子コンピュータの基になる量子ビット(Qubit)が0と1の両方の状態を表現できるからだ。水野氏は「古典コンピュータの100ビットは2の100乗通りの中から1つを表現できるだけにすぎないが、量子コンピュータの100量子ビットは2の100乗通りの全てを表現できる。この量子ビットによって重ね合わさった状態から欲しい状態を観測する、取り出す方法としてアニーリング型とゲート型がある」と説明する。
アニーリング型は巡回セールスマン問題などに代表される組み合わせ最適化問題に特化している。一方、1985年に初めて理論が提唱された量子コンピュータと同様に、因数分解を解くなどより汎用的に利用できるのがゲート型だ。
アニーリング型、ゲート型とも冬の時代を超えて、2010年代に入ってからは活発な開発が進められている。そして、アニーリング型の開発では日立を含めて日本企業の名前が多数見られる一方で、ゲート型の開発は米国や中国が大規模な投資を行っており、日本企業の存在感は希薄とされてきた。
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