国内24社が量子産業創出に向けQ-STARを設立、活動のベースとなる「QRAMI」とは:量子コンピュータ
量子技術による新産業創出協議会(Q-STAR)が2021年9月1日、設立会員24社による総会の承認を得て正式に発足した。Q-STARは今後、4つの部会を中心に産業界が主体となって「量子産業の創出」を目指す方針である。
量子技術による新産業創出協議会(Q-STAR:Quantum STrategic industry Alliance for Revolution)は2021年9月1日、設立会員24社による総会の承認を得て正式に発足したと発表した。Q-STARは、民間企業11社が参加して同年5月31日に発足した設立発起人会の下で具体的な準備が進められてきたが、正式発足後は4つの部会を中心に、産業界が主体となって「量子産業の創出」を目指す方針である。
Q-STARの設立会員24社は以下の通り。伊藤忠テクノソリューションズ、SBSホールディングス、キヤノン、JSR、住友商事、SOMPOホールディングス、第一生命保険、大日本印刷、大和証券グループ本社、長大、東京海上ホールディングス、東芝、凸版印刷、トヨタ自動車、NEC、日本電信電話(NTT)、日立製作所、富士通、みずほフィナンシャルグループ、三井住友海上火災保険、三井住友フィナンシャルグループ、三井物産、三菱ケミカル、三菱電機(五十音順)。
運営委員会の委員長には、設立発起人会の会長を務めた東芝 取締役会長 代表執行役社長 CEOの綱川智氏が就任。副委員長として、NEC 取締役会長の遠藤信博氏、NTT 取締役会長の篠原弘道氏、日立製作所 執行役会長兼執行役社長兼CEOの東原敏昭氏、富士通 社長CEO兼CDXOの時田隆仁氏、三菱ケミカル 代表取締役社長の和賀昌之氏が名を連ねた。また、役職はないものの、トヨタ自動車 代表取締役会長の内山田竹志氏も運営委員会に加わっている。
DX1.0、DX2.0に続けて「QX」が起こる
各社のトップが参画する運営委員会をQ-STARの取締役会とすると、事業執行の役割を担うのが実行委員会だ。この実行委員会の委員長を務めるのが、東芝 執行役上席常務の島田太郎氏である。
島田氏は、オンラインで開催されたQ-STAR設立記念シンポジウムの冒頭で「サイバーとサイバーをつなぐDX(デジタルトランスフォーメーション)1.0、サイバーとモノがつながるDX2.0と進んできたが、今後は量子トランスフォーメーションであるQXが起こる可能性がある。さまざまな量子技術によって根本から変革が起こるQXに向けて、量子関連ビジネスを創出するのがわれわれの使命だ」と語る。
これらの量子技術は、量子コンピュータにとどまらず、データの取り扱い方からより安全な通信である量子暗号通信、アプリケーションソフトに加えて、材料、デバイス、計測技術、さらには量子マテリアル、量子生命・医薬・バイオ、量子センサー、量子AIなど「さまざまな量子××があり得る」(島田氏)。
そこで、Q-STARで策定したのが、量子技術の産業化リファレンスアーキテクチャモデルである「QRAMI」である。リファレンスアーキテクチャモデルは、スマートグリッドやインダストリー4.0などでバリューチェーン全体を表すのに用いられた3Dモデルとして知られる。Q-STARの実行委員会に参画する設立会員企業のCTOクラスのメンバーが毎週打ち合わせを重ねて作成した。
「QRAMI」のイメージ。立方体の左辺がLife Cycle & Value Stream、右辺がHierarchy Levels、鉛直方向がLayersという構成はインダストリー4.0で用いられている「RAMI4.0」などと同じである(クリックで拡大) 出典:Q-STAR
Q-STARの活動の主体は、「量子波動・量子確率論応用部会」(部会長:日立製作所)、「量子重ね合わせ応用部会」(部会長:NEC)、「最適化・組合せ問題に関する部会」(部会長::富士通)、「量子暗号・量子通信部会」(部会長:東芝)というユースケース創出を行う4つの部会が中核となるが、それぞれの部会は基礎的な骨組みとして構築したQRAMIに具体的な肉付けをしていくことになる。島田氏は「QRAMIをベースに量子技術の社会実装を高速化する。また、量子技術は加速度的に進化しているので、QRAMI自身もアジャイルにアップデートしていかなければならないだろう」と説明する。
現在のQ-STARの会員数は24社だが、今後はなるべく早く100社以上に増やしたい考えだ。年会費は、部会の設立が可能な特別会員が200万円、法人会員が150万円、賛助会員が50万円、中小・ベンチャー企業向けの準法人会員が10万円。「これらの会費はQ-STARの運営に必要な費用として徴収しているので、十分な会員数が集まれば値下げも検討したい」(島田氏)としている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 量子アニーリング提唱者の西森氏が語る量子コンピューティングの現在
2020年11月16〜27日にオンラインで開催された「第30回 日本国際工作機械見本市(JIMTOF 2020 Online)」において、主催者セミナーとして東京工業大学 科学技術創成研究院 特任教授の西森秀稔氏が登壇。「量子コンピュータ研究開発の現状と展望」をテーマに講演を行った。本稿ではその内容を紹介する。 - その名も「kawasaki」、国内初のゲート型商用量子コンピュータが稼働
東京大学とIBMは、日本初導入となるゲート型商用量子コンピュータ「IBM Quantum System One」が稼働を開始したと発表。設置場所は「新川崎・創造のもり かわさき新産業創造センター」で、東京大学が設立した量子イノベーションイニシアティブ協議会に参加する慶應義塾大学や、日本IBMを含めた企業11社を中心に活用を進めることになる。 - 国内11社が量子技術応用の協議会を設立へ「産業応用でも世界をリードする」
量子技術による社会構造変革を目指す民間企業11社は、業界の垣根を越えて量子技術を応用した新産業の創出を図るための協議会である「量子技術による新産業創出協議会」の設立に向けた発起人会を開催。今後は2021年7〜8月の協議会設立に向けて、より多くの企業の参加を目指して具体的な準備を進めていく方針である。 - 数年後に古典コンピュータを超える量子コンピュータ、IBMは事業化に舵を切る
日本IBMが量子コンピュータに関する取り組みの最新状況について説明。IBMが1970年代から研究を続けてきた量子コンピュータの現在の開発状況や、日本での事業展開、今後の実用化に向けた取り組みなどについて紹介するとともに、「量子コンピュータの事業化が既に始まっている」ことなどを訴えた。 - 東大が量子技術の社会実装に向け協議会設立、トヨタや日立など製造業も参画
東京大学は、量子コンピューティングをはじめとする量子技術の社会実装を目指す「量子イノベーションイニシアティブ協議会(QII協議会)」を設立した。同協議会には、産業界から、JSR、DIC、東芝、トヨタ自動車、日本IBM、日立製作所、みずほフィナンシャルグループ、三菱ケミカル、三菱UFJフィナンシャル・グループの9社が参加する。 - 「NISQ」による量子コンピュータ応用、「Amazon Braket」がハードルを下げる
AWSジャパンが量子コンピューティングサービス「Amazon Braket」や、量子コンピュータの技術動向について説明した。Amazon Braketは「全ての開発者、科学者の手に量子コンピューティングを」というコンセプトのフルマネージドサービスで、AWSの他のサービスと同様の手軽さで利用できるという。