【総括】デライトの目指す先とその実現に向けて必要なこと:デライトデザイン入門(8)(3/3 ページ)
「デライトデザイン」について解説する連載。最終回となる連載第8回では、デライトの「価値」を生み出す2つの軸について考え、これに基づいて、いくつかの“デライトと思われている製品”の分析を試みる。そして、以上の検討を踏まえ、デライトデザインを実現するための方策を提案する。
デライトデザインの実現に向けて
本連載を締めくくるに当たり、デライトデザインの実現に向けて必要なことを考えてみたい。
デライトデザインは、デライト製品を創出するための考え方、手法、ツールである。ただ、デライトデザインという考え方だけでは、デライトな製品は生まれない。デライトデザインという考え方を通して、デライトな製品を創出するのはエンジニア(技術者)である。これは取りも直さず、デライトデザインという考え方をデライトな製品へと具体化できるかどうかは、エンジニアの資質にかかっていることを意味する。エンジニアがデライトデザインの考え方を理解し、手法、ツールに習熟していることも必要であるが、これに加えて“エンジニア自体がデライト”であり、「このようなものを世の中に出したい」という夢を持っていることが重要である。図7にデライト製品を生み出すための条件を描いてみた。
一方、日本のものづくりは“擦り合わせ”を強みとしている。これは重要なことで、今後も生かしていく必要がある。しかし、“擦り合わせ=集団ものづくり”であり、どうしても「出る杭(くい)は打たれる」「船頭多くして船山に上る」状態になり、デライトデザインの環境にはそぐわない。本連載でデライトデザインのプロセスとして、リバース1DCAE→1DCAEを紹介した。図8に示すように、前半のリバース1DCAEは分析評価であり、抜けなく実施するためには擦り合わせ(集団ものづくり)が適している。一方で、後半の1DCAEはアイデアの創出から始まる。これは本来個人に依存すべきものである。このアイデアを具体化して試作するプロセスは種々のツール(1Dツール、3Dプリンタ)の普及により、個人での実行が可能である。そこで、この1DCAEのプロセスを“1人ものづくり”で実行することにより、個のアイデアを、外乱を気にすることなしに具現化できると考える。
全8回にわたって、デライトデザインとは何か、なぜ必要なのか、その方法、適用事例について紹介した。われわれエンジニアは、適正な人工物を世に送り出すという使命を担っている。単に「便利」なだけでなく、精神的な「幸福」をもたらし、また、人工物の源泉となっている地球に存在する“あらゆるものに優しいものづくり”をデライトデザインを通して実現していきたい。 (連載完)
筆者プロフィール:
大富浩一(主査) (https://1dcae.jp/profile/)
日本機械学会 設計研究会
本研究会では、“ものづくりをもっと良いものへ”を目指して、種々の活動を行っている。デライトデザインもその一つである。
- 研究会HP:https://1dcae.jp/
- 代表者アドレス:ohtomi@1dcae.jp
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