自律運航船の遠隔監視・操船を担う「フリートオペレーションセンター」に潜入!:船も「CASE」(3/3 ページ)
海事企業など国内30社が参画する「Designing the Future of Full Autonomous Ship プロジェクト」の「フリートオペレーションセンター」が、2021年9月2日に竣工した。自律運航船の航行を主に遠隔監視と遠隔操船で支援する陸上拠点で、複数の自律運航船を遠隔監視できる「統合表示ブロック」と個別に遠隔操船できる「非常対応ブロック」で構成される。また、自律運航船に搭載する舶用機器とシステムの運用試験を陸上で実施できる想環境も用意した。
それはまるで仮想船橋、陸上から遠隔操船する「非常対応ブロック」
フリートオペレーションセンターで統合表示ブロックと背中合わせに配置されている非常対応ブロックでは、選択した船舶を遠隔で操船できる機能を用意している。このブロックでは遠隔操船用シートの周囲に船上から送られてきた周辺海域の映像やレーダー画像、APU(行動計画=航海計画ユニット。電子海図にAISやレーダー、船舶搭載機器から取得した周辺船舶の船名、位置情報、速度、針路、海象状況などから実施すべき航海計画を提案する)画面、コニング(航海情報集約)画面、3D Bird View画面を配置する他、オートパイロットのコントロールコンソール、主機遠隔操縦装置を備えて、陸上から船舶の操船にも対応できるようにしている。
なお、フリートオペレーションセンターは陸上訓練用のシミュレーターとしても運用できる。その場合、「DNV」という船級協会が開発した仮想海洋空間「Cybersea」の上で航海状況を再現する。洋上の映像や周辺船舶の映像など「仮想環境の視覚化」には日本海洋科学が開発した操船シミュレーターのシステムを採用している。
操船者シートからの視界。上部には船舶周辺の映像を、下部には航海計器や航海情報をそれぞれ表示する。シート左右に配置したコンソールでカメラ方向や舵、主機を制御する(中央)。
船舶周辺映像は下の三画面で正面200度を、上部2画面で左右舷後方80度をカバー。上部中央は船上の旋回台に設置して遠隔で制御可能だ(右)[クリックで拡大]
下部左に配置したディスプレイではレーダー画像を表示。予定航路やAISで取得した周辺船舶情報も重ねて表示できる(中央)。
下部中央にあるのはAPU(Action Planning Unit。行動計画ユニット)画面。電子海図に自船や周辺他船の航海情報を重ねて表示するだけでなく、船上で収集した情報を基に操船計画を提示して遠隔操船者を支援する(右)[クリックで拡大]
操船者シートの左には旋回台に載せたネットワークカメラの制御卓とジョイスティックを備えたオートパイロットコントロールコンソールがある。フリートオペレーションセンターでは東京計器の多機能型ジョイスティックコントローラー「MJS-9000」を採用している(中央)。
操船者シートの右前には上空から俯瞰した位置関係をフレームで視覚化した3D Bird View用画面を配置する(右)[クリックで拡大]
操船者シートの右には主機関の回転数やスラスターなど機関室関連装置を遠隔操作できる主機遠隔操縦装置を備える。フリートオペレーションセンターではナブテスコの「M-800-V」を採用している(右)[クリックで拡大]
今回の施設公開では、日本郵船の船長経験者である桑原氏が非常対応ブロックの操船者シートに陣取り、遠隔による避航操船のデモを紹介した。なお、先に述べたように、フリートオペレーションセンターは自律運航船の遠隔監視と非常時における遠隔操船の拠点となるが、それとともに、遠隔監視と遠隔操船を実施する陸上配置の船長と機関長の訓練施設としても運用する。訓練においては実船による航海の代わりに「Cybersea」によって構築した“仮想洋上”の上をデジタルツインで再現した船舶データが航行する。
桑原氏によるデモでは、自船に向かって複数の衝突コースで航行する船舶をCyberseaの上で航行させるシナリオを用意し、システムが提案する避航計画を参照した上で、陸上船長である桑原氏が非常対応ブロックの操船者シートからMJS-9000とM-800-Vを操作して避航する操船過程を実演した。
APUがこの状況で衝突を避けるために提示した避航計画から最も妥当な航路を“人間”が選択してシステムに実行するように命令する(中央)。
選択した避航計画に従って遠隔操船対象船は針路を変更し衝突を回避できた。周辺映像ではCyberseaの上で航行する他船がAPUで表示されている通りにすれ違っている。ちなみに、右舷前方で行き合っているのは日本郵船所属の客船「飛鳥II」だ(右)[クリックで拡大]
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