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低分子化合物を収着しづらい肝臓チップで代謝試験、毒性試験が可能に医療技術ニュース

京都大学 iPS細胞研究所CiRAは、低分子化合物を収着しづらいフッ素系エラストマー製のマイクロ流体デバイスを用いて肝臓チップを作製し、薬物収着の影響を最小限にした薬物代謝、毒性試験が可能であることを示した。

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 京都大学 iPS細胞研究所CiRA(サイラ)は2021年9月16日、低分子化合物を収着しづらいフッ素系エラストマー製のマイクロ流体デバイスを用いて、肝臓チップを作製したと発表した。同チップを用いて、薬物収着の影響を最小限にした薬物代謝、毒性試験が可能であることを確認した。

 創薬研究におけるin vitro試験では、マイクロ流体デバイス上で細胞を培養して作製するOrgans-on-a-chip(臓器チップ)の活用が期待されている。マイクロ流体デバイスの素材としては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)エラストマーが一般的だが、低分子化合物を収着しやすく、創薬領域では限定的な利用にとどまっていた。

 今回の研究では、低分子化合物をほぼ収着しないテトラフルオロエチレン-プロピレン(FEPM)エラストマーを素材として作製したマイクロ流体デバイスと、PDMS製マイクロ流体デバイス、細胞培養に広く用いられているポリスチレン製マルチウェルプレート(PSプレート)の3種類について性能を比較した。

 まず、各デバイス上でヒト肝細胞を培養したところ、いずれもヒト肝細胞の典型的な特徴が確認できた。しかしFEPM製デバイスとPDMS製デバイスは、PSプレートと比べると細胞の形態観察がやや難しいことが明らかとなった。

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A:PSプレートおよびPDMS製、FEPM製デバイス。BとC:各デバイスで培養したヒト肝細胞の明視野画像[クリックで拡大] 出所:京都大学 iPS細胞研究所CiRA

 次に、FEPM製デバイスでの培養がヒト肝細胞の肝機能に与える影響を調べるため、肝細胞マーカーの遺伝子発現とタンパク質発現を解析した。その結果、FEPM製デバイスで培養したヒト肝細胞は、PDMS製デバイスやPSプレートで培養した細胞と同等の機能を持つことが分かった。

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各デバイスで培養したヒト肝細胞における解析結果。A:肝細胞マーカーの遺伝子発現。B:培養上清中のヒトALB分泌量をELISAで測定した結果。C:ALBやCYP3A4など肝細胞マーカーの免疫染色結果。DAPI(青)で核染色している[クリックで拡大] 出所:京都大学 iPS細胞研究所CiRA

 続いて、FEPM製肝臓チップが医薬品の毒性試験や代謝試験に利用できるかを検討した。肝細胞毒性を誘発するクマリンを用いた毒性評価試験では、FEPM製デバイスとPSプレートのヒト肝細胞の生存率は同等だったが、PDMS製デバイスでは高く、肝細胞毒性が生じにくいことが示された。

 また、薬物を添加した培地で細胞培養した後に培地中の薬物と代謝物の濃度を測定する薬物代謝試験では、FEPM製肝臓チップがPDMS製肝臓チップよりも低分子化合物の代謝物をより高感度に検出できることを確認した。

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各デバイスで培養したヒト肝細胞に対し、A:クマリンを作用させ細胞生存率を測定した。B:薬物(MDZ、BUF)を含む培地で培養後、培地中のMDZやBUFなどの濃度を測定した。C:各代謝物(1OH-MDZ、1OH-BUF)の濃度を測定した[クリックで拡大] 出所:京都大学 iPS細胞研究所CiRA

 研究チームは、2019年にFEPM製デバイスを開発していたが、細胞を搭載したFEPM製臓器チップで低分子化合物による細胞応答を評価できるかは検討していなかった。今回の研究で、PSプレートやPDMS製デバイスと、FEPM製デバイスで培養したヒト肝細胞の肝機能が同等であること、クマリンやMDZ、BUFなどPDMS製デバイスに吸収されやすい物質についても毒性検出や代謝試験が可能であることが確認された。今後の創薬研究におけるFEPM製デバイスの活用が期待される。

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