ソフトウェアファーストでオープンな開発環境にArmが名乗り、「SOAFEE」発表:車載ソフトウェア(2/2 ページ)
Armは2021年9月16日、オンラインで説明会を開き、クラウドベースでの車載ソフトウェアの開発を推進するオープンなアーキテクチャ「Scalable Open Architecture for Embedded Edge(SOAFEE、ソフィー)」を発表した。
1つはソフトウェアの移植性と互換性の担保だ。一度開発したソフトウェアをより多くのシステムで運用するためだ。2つ目はコード設計だけでなく、成果物を組み込み環境にシームレスにデプロイするところまでをクラウドで行える、クラウドネイティブな開発環境を重視することだ。3つ目は、車載ソフトウェアに特有のリアルタイム性や安全性、セキュリティ要件を満たすコンポーネントだ。4つ目は、これら全てがオープンな標準となり、使いたい人が自由に使える形で提供されることだという。
SOAFEEは、こうした条件を満たし、組み込み機器でもソフトウェア定義型を実現できるようにする。HAL(ハードウェア抽象化レイヤー)やその下のコンテナランタイム、OSカーネル、ハイパーバイザーを対象に、ソフトウェアの標準化とオープン化を進める取り組みだ。車載機側だけでなく車載機が連携するクラウドにも同様のフレームワークを提供する。車載側にはファームウェアやハードウェアの標準化プログラム「SystemReady」も用意する。車載向けのソフトウェアスタックを標準化し、ターンキーで動作するところまでを用意する。すでにその一部がGitHub上で公開されている。自動車業界の協力を得ながら開発を進め、誰でも使えるようにする。
車載機とクラウドが協調して動作するにはコンテナ化されたソフトウェアモジュールを車載機に組み込むが、これまでクラウド側のコンテナは組み込み機器にデプロイ可能な部分に限られる。「これは車載の組み込み開発に特有だが、ECUのI/Oの制御、機能安全、リアルタイム性を十分に満足させるところまでは至っていない。SOAFEEは複雑なプロジェクトだが、ここまで取り組まないと、ソフトウェア定義型でリアルタイム性や機能安全、セキュリティを満たしたデプロイはできないとArmでは考え、SOAFEEを立ち上げた。車載ソフトウェアはミックスドクリティカリティだが、その環境でもソフトウェア定義型でうまく運営する方策になるだろう」(アーム 応用技術部 ディレクターの中島理志氏)。
ハードウェアレファレンスも開発中
アーム バイスプレジデントのブルーノ・プットマン氏は「ソフトウェア定義型の開発では、共通の開発フレームワークが必要だ。これがなければ、ソフトウェアのサプライチェーンの効率的な活用や、革新を加速させるのが難しい」と語る。共通のフレームワークとは、レファレンス用のソフトウェアスタックとなるSOAFEEと、Armベースで車載用のワークロードに必要なパフォーマンスと柔軟性を確保できるハードウェアプラットフォーム、業界内のコラボレーションで構成される。こうしたリソースを活用することによって、現実的にソフトウェア定義型の自動車の在り方を描くことができるという。
ハードウェアレファレンスも並行して開発が進められており、SOAFEEを使った開発において実機の前段階でのテストを加速させることを狙っている。ハードウェアレファレンスの開発を進めているのはADLINKとAMPEREだ。Armのサーバ向けCPU「Neoverse」シリーズを搭載したAMPEREのSoC(System on Chip)を使用しADLINKからリリースする。32個のCPUを搭載したタイプと、80個のCPUを搭載したタイプを用意する。現在、事前受注を受付中で、2021年末にもデリバリーを開始する。
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