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自動運転で広がる非競争領域、足並みを速やかにそろえられるかMONOist 2020年展望(1/4 ページ)

自動車業界の大手企業が自前主義を捨てることを宣言するのは、もう珍しくなくなった。ただ、協調すること自体は目的ではなく手段にすぎない。目的は、安全で信頼性の高い自動運転車を速やかに製品化し、普及させることだ。協調路線で動き始めた自動車業界を俯瞰する。

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 自動車業界の大手企業が自前主義を捨てることを宣言するのは、もう珍しくなくなった。さまざまな場面で「仲間づくりが必要」「この分野は競争しても意味がない」と明確に言い切るのを耳にする。

 特に自動運転車に関する協調路線が明確で、自動車業界内外のパートナーと非競争領域に取り組むためのコンソーシアムが次々と立ち上がった。異業種の企業が集まったエコシステムによって、自動運転システムの開発向けに大規模なソリューションを提供しようとする動きもある。

 ただ、協調すること自体は目的ではなく手段にすぎない。目的は、安全で信頼性の高い自動運転車を速やかに製品化し、普及させることだ。協調路線で動き始めた自動車業界を俯瞰する。

日米欧のメンバーで議論、自動運転コンピューティングの在り方

 予防安全の普及が進む以前は、車載ソフトウェアやECU(電子制御ユニット)はもちろん、走行テストを行うシミュレーターでさえ、各社が独自に開発していた。


GM傘下のクルーズが発表した無人運転車。24時間365日稼働し、寿命は160万kmだという(クリックして拡大) 出典:クルーズ

 しかし、自動運転車は、人間に代わって運転操作を行い、人間が運転していては不可能な水準に車両の稼働率が高まること用途が出てくると予測されるため、従来以上の耐久性などが必要になる。そのためには、数億行ものソースコードからなるソフトウェアと、数十万〜100万kmを走るための車両の耐久性、人間の五感以上の環境認識技術が求められる。

 車両が完成した先には、自動運転車を使った新たなサービスや使い方に応え続けるためのアップデート作業も続く。自前主義で仕様から模索し、全てを仕立てるのは現実的ではない。

 そんな環境下で複数のコンソーシアムやエコシステムが生まれている。自動運転技術の開発に関する協力体制は、「認知や判断、操作をつかさどるコンピュータ」「オープンソースソフトウェア」「安全性を評価するためのシミュレーション」「自律走行の安全性」に大別できる。自動運転車のコンピューティングシステムの業界標準を議論するのは、2019年10月に発足を発表した「AVCC(Autonomous Vehicle Computing Consortium)」だ。

 AVCCでは、自動運転のコンピューティングプラットフォームとして、低コストに、広く使うにはどの程度の性能がシステムレベルで必要かを検討している。自動運転向けコンピューティングシステムの競争領域と非競争領域を切り分け、非競争領域に関するワーキンググループが順次発足している。

何が競争領域で、非競争領域なのか

 AVCCのメンバーであるトヨタ自動車は「競合関係にある会社が集まり、大きな課題を解決するためにリソースを集めることが効果的だと協力に合意できたのがAVCCの大きなポイントだ」と期待を寄せる。トヨタグループのトヨタリサーチインスティテュートアドバンストデベロップメント(TRI-AD)でバイスプレジデントを務める谷口覚氏は「複雑なテクノロジーへのチャレンジの負担を軽減することや、レファレンスとなるモデルやプラットフォーム、APIによって、低コストに自動運転車を開発できるようにする」とAVCCが果たす役割を語る。

 AVCCが扱う自動運転コンピューティングプラットフォームの非競争領域と競争領域について、Arm ADAS/自動運転プラットフォーム 戦略担当ディレクターで、AVCCのボードメンバーを務める新井相俊氏は「例えば、クルマの中で動くプロトコルや、データのフォーマットは非競争領域になるかもしれない。どういったフォーマットがいいかというところまで含めて定義し、推奨となる仕様を提案する」と語る。

 自動運転車開発の課題は、背反する要素の両立の難しさにある。谷口氏はその難しさの解決に向けてAVCCで議論すると言い、「地域によって異なるレギュレーション、時間帯や天候によって変化する多様な走行環境に合わせるため、ソフトウェアの規模が肥大化している。これに伴ってSoC(System on Chip)への要求性能が上がり、消費電力も上がる。冷却システムの追加でコストがアップすることも課題で、消費電力は空冷でカバーできる30W以下を考えている。性能向上と消費電力や熱の低減、システムを大型化しないといった背反する要素をいかに両立できるか、AVCCで議論する」とコメントしている。

 一方で、自動運転のコンピューティングプラットフォームで競争領域となるのは、運転するためのアプリケーションソフトウェアだ。新井氏は「乗り心地や、AIによる自動運転の仕方は自動車メーカーごとに異なっているべきだとAVCCのメンバーが認識している」という。谷口氏は、「自動車メーカーが差別化したいのは、深層学習(ディープラーニング)のネットワークを使った自動運転の認識や制御のアルゴリズム、そのアルゴリズムのためのデータ、学習を効率的に進めるためのパイプラインだ」と語る。

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