全固体電池で注目高まる「電解質」、固体にするだけでは意味がない!?:今こそ知りたい電池のあれこれ(6)(3/3 ページ)
今回は、リチウムイオン電池の正極と負極の間にある「電解質」、そして「全固体電池」について解説していきます。
(1)安全性
可燃性の有機溶媒を使用せず、難燃性の固体材料に置き換えることで発火リスクを低減できる可能性があります。しかし、本質的に電池が高エネルギー体であることに変わりはないため、大型電池の安全性については十分な検証が必要です。また、硫化物系固体電解質を用いる場合、硫化水素ガスの発生という別のリスクも考慮する必要があります。
(2)急速充電
高いイオン電導率を示す固体電解質が発見されたことや電解液よりも高温への耐性があることから、従来の液系リチウムイオン電池よりも大電流での急速充電が可能になるのではないかといわれています。充電速度は電池側の特性だけの問題ではなく、対応する充電器側の出力能力の問題でもあるため、一概に可能であるとは言い切れませんが、固体電解質の材料特性や電池構造の工夫によっては充電時間を短縮できる可能性があります。
(3)高エネルギー密度
5Vスピネル、リチウム金属といった、従来の液系リチウムイオン電池ではまだ実用化されていない活物質があります。組み合わせる固体電解質の種類によってはこれらの活物質が使用可能となり、エネルギー密度の向上に寄与できる可能性があります。
また、こちらも材料や電池構造による部分ではありますが、安全性や高温耐性の向上に伴い、冷却機構をはじめとする電池構成部材が削減されることでエネルギー密度が向上できるのではないかという意見もあります。
(4)寿命特性
リチウムイオン電池は電解液の分解を伴う副反応によって劣化を引き起こすことが知られています。本連載の第1回で触れたようにガス発生による膨張などがその典型的な事例です。固体電解質は電解液よりも副反応が起こりにくいことから、寿命特性の向上が期待されています。
これらの特徴を精査すると、従来のリチウムイオン電池の電解液を固体電解質に置き換えることで安全性や寿命特性への寄与が期待される一方、その他の特性については固体電解質やそれと組み合わせる周辺技術の今後の開発動向によるものであるといえるでしょう。
本連載の第4回、第5回で解説したように、容量や起電力といった重要な電池特性の多くは電極中の活物質に左右されるものであり、電解質を固体材料に置き換えただけで劇的に電池性能が向上するというものではないことは注意が必要です。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)でも、硫化物固体電解質を活用した第1世代全固体電池が2020年代後半、材料系が改良された次世代全固体電池が2030年代前半に、それぞれ車載用蓄電池市場へ登場すると想定しており、今後の開発が期待されます。
今回は、リチウムイオン電池の正極と負極の間にある電解質、そして全固体電池についてまとめてみました。
全固体電池は各メディアでも頻繁に取り上げられ、何かと注目されがちな技術ですが、まだまだ詳細不明な部分も多く、さまざまな情報が飛び交いがちです。日本カーリットの電池試験所や安全性評価試験所では、そんな多種多様な電池・デバイスの特性に応じた性能評価を通して、電池技術の発展に貢献できるよう、日々取り組んでおります。また、今回のコラムが読者の皆さまの情報整理や理解の一因となり、何かのお役にたてれば幸いです。
著者プロフィール
川邉裕(かわべ ゆう)
日本カーリット株式会社 生産本部 受託試験部 電池試験所
研究開発職を経て、2018年より現職。日本カーリットにて、電池の充放電受託試験に従事。受託評価を通して電池産業に貢献できるよう、日々業務に取り組んでいる。
「超逆境クイズバトル!!99人の壁」(フジテレビ系)にジャンル「電池」「小学理科」で出演。
▼日本カーリット
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▼電池試験所の特徴
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▼安全性評価試験(電池)
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