実車で走って分かった全固体電池の課題は「寿命の短さ」、EVよりもHEV向き?:電気自動車(3/3 ページ)
トヨタ自動車は2021年9月7日、オンラインで説明会を開き、電動車の普及に向けた投資などの戦略を発表した。
「電池だけ」「クルマだけ」ではなく両輪で開発
説明会でCTOの前田氏は、電池と車両の開発が両輪で進むことの重要性を強調した。一部の自動車メーカーは電池で使用する活物質や、その使い分けの方針を示している。具体的な量産モデルの計画よりも電池の種類や採用する材料の戦略が先行して発表される場合もある。トヨタ自動車は特定の材料には言及せず、2020年代後半に向けて幅広くさまざまな電池開発に取り組む。
今後注目する材料や調達に関する質問を受けて、前田氏は「さまざまな活物質を検討しており、どれかに強く傾注すると決められる段階ではない。EVの走行距離を例にしてもニーズは地域ごとにさまざまだし、かつての馬力競争のように走行距離が長いことが強みになるのかどうか。どの材料でやるべき市場なのかは、ニーズを見ていく必要がある。まずはクルマの素性をよくしていく。より良い素性で少ないエネルギーでもよく走り、電池の性能を使い切る制御があれば、車両に搭載する電池の量が減る。それは、ライフサイクルでのCO2排出や、材料の調達リスクを減らすことにもつながる」と回答した。
固体電解質の長寿命化や液系電池の材料進化など、材料開発にも注力する。過去の材料開発のデータを生かした「マテリアルズインフォマティクス」を活用して、最適な材料を最短で探す手法をとる。
CTOの前田氏は電池と車両の開発を両輪で進めることについて、「電池の使い方はクルマの使い方だ。いつ充電するか、どの程度走るか、どのように温度が下がるか、使い方を設計や制御に反映させていく必要がある。電池だけ、クルマだけの開発でこれをやるのは難しい。両輪だからこそやりやすいし、成り立つ。車両がこうなっているときに電池はどのような状態か、評価する必要がある。シミュレーションなど計算も重要だが、データ収集と走行テストのループも繰り返しながら5つの要素が高いレベルでバランスが取れるポイントを愚直に探していく必要もある」と語る。
ただ、使い方によって電池の状態はさまざまだ。発熱や発火といった重大な影響を及ぼす劣化への対策も求められる。
リチウムイオン電池全般の発熱や発火の対策としては「電池をどこまで監視できるか、電池の内部で起きていることを材料レベルでも把握できることが重要だ。車両の状態や使い方によって、電池の温度、充電量、電流、劣化状態が決まってくるが、その組み合わせのパターンは膨大だ。電池を評価する上では、全てつぶし込まなければならない。そういう評価をリアルで積み重ねていくと、データがたまってくる。データが増えれば、AIがデータとデータの間を補完したり、シミュレーションでより広い条件や、中間の条件でも発熱や発火が大丈夫なのか検証できる」と前田氏はコメントした。
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