香りの種類でスピード感が変わるクロスモーダル現象を発見:医療技術ニュース
情報通信研究機構は、心理物理実験とfMRI実験により、香りで映像のスピード感が変わる新しいクロスモーダル現象を発見した。香りが低次の脳機能に影響を与えることを発見したのは世界で初になるという。
情報通信研究機構(NICT)は2021年8月19日、心理物理実験とfMRI実験により、香りで映像のスピード感が変わる新しいクロスモーダル現象を発見したと発表した。香りが、映像のスピード感のような低次の脳機能に影響を与えることを発見したのは世界で初になるという。
(左上)実験に用いた嗅覚制御装置Aroma Shooter、(左下)心理物理実験での参加者が視聴する画面、(中央)心理物理実験によるスピード感の実験結果、(右)fMRI実験による脳部位hMT、V1それぞれの脳活動の結果(クリックで拡大) 出典:情報通信研究機構
視覚と聴覚、嗅覚と味覚など、いくつかの異なる知覚が互いの感覚に影響を及ぼしあうことをクロスモーダル現象という。嗅覚刺激によるクロスモーダル現象は、香りによって気分を変える効果などが知られている。
今回の心理物理学実験では、レモンまたはバニラの香り、さらに無臭の空気を1秒間噴射した後、白く動く点(モーションドット)の速さを回答した。香りの強度はレモン、バニラが50%、100%の各2段階、モーションドットの速さは7段階あり、被験者は計525試行の実験を行った。
香りの制御には、アロマジョインの「Aroma Shooter」を使用した。心理物理学実験の結果、白点が同じ速さで動いていてもレモンの香りを嗅いだときは遅く、バニラの香りを嗅いだときは早く感じること明らかとなった。また、同じ実験をしながらfMRIにより脳活動を調べたところ、視覚情報の動きにかかわる脳の視覚野であるhMTと最も初期に視覚情報を処理する視覚野であるV1の脳活動が、香りによって変わることが示された。
嗅覚刺激の制御や感性評価の難しさから、嗅覚刺激によるクロスモーダル現象の研究は発展途上であり不明点が多い。今回の成果は、視覚と嗅覚の新たなクロスモーダル現象の発見という意義だけでなく、VR(仮想現実)など産業分野での応用にも期待ができる。
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