嫌いな匂いから逃げる線虫で、意思決定のための遺伝子を発見:医療技術ニュース
大阪大学は、線虫が嫌いな匂いから遠ざかるために「意思決定」をしていること、そのために特定の神経細胞が匂い濃度の情報を積分して情報を蓄積すること、また、それに関わるものがヒトにも存在する遺伝子であることを発見した。
大阪大学は2017年5月22日、線虫が嫌いな匂いから遠ざかるために「意思決定」をしていること、そのために特定の神経細胞が匂い濃度の情報を積分して情報を蓄積すること、また、それがヒトにも存在する遺伝子であることを発見したと発表した。同大学 大学院 理学研究科 特任研究員の谷本悠生氏と准教授の木村幸太郎氏らの共同研究チームによる研究で、成果は5月23日にオープンアクセス誌「eLife」で公開された。
研究グループは、神経細胞が302個しかない線虫「C.エレガンス」に注目。線虫は、嫌いな匂い物質から逃げる時、他の刺激に比べてより正しい方向を選んで逃げるように見える。そこで、仮想の匂い勾配を作り出しながら線虫を追いかけて神経活動を測定するロボット顕微鏡「オーサカベン2」を作成し、匂いと神経活動と行動の関係を調べた。特に、匂い濃度を感じる神経細胞の活動を、細胞活動を反映することで知られるカルシウム濃度として測定し、その結果を数理モデルを用いて解析した。
その結果、嫌いな匂いの濃度の上昇をわずかでも感じると、線虫の神経細胞はその変化を微分によって検出し、逆走や方向転換を始めた。逆に、匂い濃度の減少を感じる神経細胞は、匂い濃度の減少を一定時間積み重ねる積分を行い、この値が一定に達した時、つまり時間をかけて見極めてから慎重にその方向へ進むことを選択していた。
さらに幾つかの遺伝子を調べたところ、積分の際には、細胞膜上にある1種類のカルシウム通路タンパク質を通して細胞の外からゆっくりとカルシウムが細胞の中に入ってくることで、匂い刺激の変化が細胞活動として蓄積されることが分かった。一方、微分の際には、これ以外にもさまざまなカルシウム通路タンパク質が開き、カルシウム濃度の急速な上昇を示す実験結果が得られた。これらのカルシウムチャネルはヒトにも共通しているが、意思決定との関連は従来明らかになっていなかった。
意思決定の研究は、サルやネズミでも脳の神経細胞が刺激の積分を行い、一定のレベルに達した時に行動を選択していることが知られており、この仕組みはヒトにも共通していると考えられている。今回の研究は、この積分の仕組みが線虫からヒトまで共通した遺伝子によって行われている可能性があることを明らかにした。
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