線虫を用いて、動物の行動が性的成熟期に変化する仕組みを解明:医療技術ニュース
九州大学は、線虫を用いて、動物の行動が性的成熟期に変化する仕組みを明らかにした。生殖細胞が増殖し大人の線虫になると、嗅覚の神経回路の反応が調節され、子どもの時とは匂いの好みが変化すると考えられる。
九州大学は2016年6月3日、神経系のモデル生物である線虫を用いて動物の行動が性的成熟期に変化する仕組みを明らかにしたと発表した。同大学大学院理学研究院の石原健教授らの研究グループによるもので、成果は同月2日、米科学誌「Current Biology」オンライン版に掲載された。
多くの動物は成長段階に応じて行動パターンを変化させることが知られているが、そのような行動変化の制御機構はほとんど分かっていなかった。
今回、同研究グループは、線虫C.エレガンスに注目。これは302個の神経細胞からなる神経回路の構造が全て明らかにされている、神経系のモデル生物だ。まず、行動実験と神経活動の測定を組み合わせて解析し、子どもの線虫と大人になった線虫では匂いの好みに違いがあることを明らかにした。
線虫は卵からふ化後、大人になるまでの間に生殖細胞が増殖して性的な成熟が起こる。そこで、生殖細胞の増殖を人為的に止めて生殖細胞を持たない大人の線虫を作ると、匂いの好みが子どもの時のままであることが分かった。また、生殖細胞を持たない線虫では、匂いを感じるのに働く神経回路中の特定の神経細胞の反応が弱くなっていた。
これらのことから、生殖細胞が増殖すると、嗅覚の神経回路の反応が調節され、匂いの好みが変わると考えられる。さらに、この制御には、ストレス耐性などにも働く転写因子(遺伝子発現を調節するタンパク質)DAF-16/FOXOが関わっていることも示された。
この研究結果は、動物の行動変化が生殖腺の成熟とリンクして起こる仕組みを、線虫を用いた分子レベルおよび神経回路レベルの解析から初めて明らかにしたものだ。将来、思春期特有の心の変化など、人の心でも起きている現象を説明できる可能性があるとしている。
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