ロボットの知能化を実現する「エクスペリエンス・ベースド・ロボティクス」とは:AI・人工知能EXPO(2/2 ページ)
「第5回 AI・人工知能EXPO 春」の技術セミナーに、早稲田大学 理工学術院 教授で産業技術総合研究所 人工知能研究センター 特定フェローを務める尾形哲也氏が登壇。「ディープラーニングが革新するロボットの知能化と産業」をテーマに講演を行った。
開発成果として「AI模倣学習」をリリース
これまでのロボットは、人間があらかじめ与えた軌道に沿って動くような制御が行われてきた。それとは違って、知能化したロボットでは、動いている最中に、自身で予測して行動を変えることをリアルタイムに行えなければならない。予測の誤差に対して、それを最小化するようにモデルを更新したり、予測の仕方を変えたり、行動そのものを変化させたりすることが求められる。
例えば、タオルを畳むロボットについて、それまで1分以上かかって畳んでいたところから、データを集めてきて学習させると10秒以内に畳めるようになってくる。誤差を意識しながら自分の行動を修正することにより、畳む作業がスムーズになっていく。高次元の画像入力などを材料として未来を予測しながら動けるようになり、感覚と行動の組み合わせによってどのように発展していくかのフローを学習させていくことで、失敗も経験にしていくのが「エクスペリエンス・ベースド・ロボティクス」というわけだ。
尾形氏はさまざまな企業と連携してロボットを開発し、これまで実績を積んできた。例えば、ピッキングの後にドアを開けるというような複合した作業や、粉体、液体などを秤量するなどの特徴を発揮するロボットのモデルを開発している。これらの技術の部分的な応用として、2021年4月にデンソーウェーブが、ロボットをAIでリアルタイムに制御する汎用ソフトウェア「AI模倣学習」を出荷開始している。
続けて、尾形氏は、大学と企業の視点の違いについて述べた。大学での基礎研究を、企業の実際の現場に持って行くときに大きな壁があるという。企業は、大学にシーズを期待しているが、その際には、何が可能になるのか、どのくらいできるのか、ということについて興味を持つ。一方で大学側は、企業が興味を持つことはそこまで重視しておらず、失敗なども大事な知見として扱う。「学術は過去の知見の積み重ねと一部修正の繰り返しのプロセスであり、そこに新しい知見や修正が入ればいいのであって、正論よりも根拠が重要となる。『すごくできた』ということより、わずか0.1%程度の性能向上でもそれに確実性があれば、その根拠に関心を示す」(尾形氏)。このため、大学の研究は、従来に比べて大幅な修正が必要になると一瞬立ち遅れることもある。
尾形氏は「多くの大学の先生は、論文の執筆を繰り返して、学術的に貢献する知識をためていくことに価値観を置いている。多くの知見が最先端技術に結び付くのは確かだが、それが問題解決に使えるケースはまれだ」と述べている。
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