次世代へ共生細菌を伝達するために必要な宿主タンパク質を発見:医療技術ニュース
産業技術総合研究所は、マルカメムシの「共生細菌カプセル」の内容物が単一の新規分泌タンパク質であることを発見した。このタンパク質が、宿主体外では脆弱な共生細菌を保護することで、共生細菌を次世代に伝達していることを解明した。
産業技術総合研究所(産総研)は2021年6月15日、マルカメムシが産生する「共生細菌カプセル」の内容物の大部分が、単一の新規分泌タンパク質であることを発見したと発表した。このタンパク質が、宿主体外では脆弱(ぜいじゃく)な共生細菌を保護することで、共生細菌を次世代に伝達できることが分かった。
マルカメムシの腸内には、特定の共生細菌が存在し、これがいなければ正常な成長や繁殖ができない。また、共生細菌も長期間にわたる共生進化により、宿主体外で生存する能力を失っている。しかし、植物上に産卵する際に、マルカメムシは共生細菌カプセルと呼ばれる褐色の塊を一緒に産みつける。ふ化幼虫は、カプセルの内容物を摂取することで、共生細菌を獲得する。
今回の研究では、マルカメムシの消化管を調査。中腸の後部(第4領域)が長大に発達し、共生細菌を保有する共生器官であることが分かった。特にメス成虫では、共生領域の後部に発達した膨大領域と末端領域が続いており、共生領域から供給される共生細菌が膨大領域で分泌物に包まれ、末端領域で貯蔵されている。
その末端領域の上皮からキチン質の層状の殻が分泌され、産卵時に共生細菌と分泌物が包まれた共生細菌カプセルとして排出する。カプセルに含まれるタンパク質はほぼ1種類で、研究グループはこれを「PMDP(Posterior Midgut Dominant Protein、後部中腸優占タンパク質)」と名付けた。
このPMDP遺伝子の発現を抑制したマルカメムシでは、共生器官内の共生細菌が死滅し、最終的に共生細菌カプセルのない卵塊を生むようになった。
この卵塊からふ化した幼虫は、カプセルを探して走り回り、卵殻の近くに集団を作ることはなかった。共生細菌を獲得できないため、正常卵塊由来の幼虫よりも発育が遅かった。また、PMDP抑制でカプセルを産生しなくなったメス幼虫は、正常なメス成虫より死亡率が低下し、寿命が延長した。
共生細菌カプセルの存在はこれまで知られていたが、成分や機能については不明だった。今回の成果は、微生物との共生関係に必要な宿主側の因子を明らかにしたもので、共生維持の分子機構の解明につながることが期待できる。
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