住空間データのImageNetとなるか、パナソニックがAIデータセットを公開する狙い:研究開発の最前線(2/2 ページ)
パナソニックは「CVPR2021」において2件のAI技術が採択されたと発表。このうち1件と関わる住空間向けデータセット「Home Action Genome」は、同社が独自に構築したもので、住空間向けでは従来にない大規模なデータセットであるにもかかわらず無償で公開されている。その狙いについて、パナソニック テクノロジー本部の担当者に聞いた。
Home Action Genomeへの「対照学習」の適用と「データ拡張」の自動化
今回のCVPR2021では、このHome Action Genomeについて、「対照学習(Contrastive Learning)」を用いることで行動認識性能の向上が図れるという研究成果が採択された。
対照学習とは、機械学習の分類問題で特徴抽出と識別面生成を行う際に、同じものは近く、異なるものは遠くなるように特徴量を学習する手法である。これにより、見え方が違っていても同じものは同じという一貫性を保てるようになり、見え方の違いにあまり影響を受けずに正しい認識が可能になる。
今回の研究成果では、Home Action Genomeを用いて、複数視点、モダリティ、行動・詳細動作の対照学習を行うことで、住空間における複雑な行動の認識性能を向上することができたという。特に、日常行動70種類と453の詳細動作の網羅によって、行動と詳細動作の間の相互作用から一貫性を持った特徴量の学習が可能になったという。
もう1つの採択された研究成果は、対照学習と同じく機械学習のテクニックであるデータ拡張を進化させるAutoDOである。
AIにおける学習で大きな課題になっているのがデータ不足だろう。例えば、車載カメラによる前方認識のAIを開発する場合、歩行者や自転車などの高い頻度で現れる対象のデータは収集しやすいが、子供やベビーカーなど低頻度でしか出現しない対象のデータは収集が難しい。工場などでの求められる外観検査のAIでも、学習に用いる不良品のデータそのものが少ないことが問題になっている。
データ拡張は、これらのように収集が難しいデータを水増しする技術である。画像であれば、回転やズーム、併進、色変換などによって疑似的にデータ数を増やすのだ。
ただし、データ拡張を行うと、データ量の増加による逆効果が発生してしまうことがある。例えば、犬と猫の画像分類の場合に、識別面が理想的な位置からずれてしまい、犬を猫と分類してしまうようなことも起こり得る。このような事態を避けるため、データ拡張を行う際には、データサイエンティストなどの専門家による適切なパラメータのチューニングが必要だった。
AutoDOは、学習データの分布に応じて自動的に最適なデータ拡張のパラメータを調整する技術である。これによって、データ不足が課題になっていた分野へのAI技術の応用を進めやすくなるという。
築澤氏は「AIをはじめとする研究開発において、当社は大学や研究機関など社外と連携したオープンイノベーションに取り組んできた。そういう意味で、Home Action Genomeを公開することによる共創が特別なわけではない。これまでも、これからも、共創を通じて世の中へのお役立ちを実現していきたい」と述べている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「パナソニックの持つ多様性を価値に転換する」、新CTOの小川氏が会見
パナソニックの技術トップとして新たに執行役員 CTO、薬事担当に就任した小川立夫氏がオンライン会見を行った。今回の会見は、小川氏のパナソニックにおける経歴や技術開発についての考え方などを説明すもので、具体的な研究開発の方向性などについて踏み込むことはなかったが、その基盤となる考え方を示唆する内容となっていた。 - ニューノーマルを「くらしアップデート」の追い風に、パナソニックの技術戦略
パナソニックは、技術セミナーとして研究開発戦略について、パナソニック 専務執行役員でCTOとCMOを務める宮部義幸氏がオンラインで説明を行った。「くらしアップデート業」を掲げる中で、これらに最適な技術基盤の構築を進める一方で、技術の活用先として新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応を進めていく方針を示した。 - AIで実現するパナソニックの「ヨコパナ」、1000人のAI人材確保も着実に進む
パナソニックがAI活用戦略について説明。AI開発の方向性「E3(イーキューブ)-AI」や、3+1の注力分野、AI相談の社内向けワンストップサービス「DAICC(ダイク)サービス」などについて紹介した。かねて発信している、2020年度までのAI人材1000人の確保に向けた取り組みも着実に進めているという。 - パナソニックが目指すAI活用の方向性とは「AIも半導体設計も同じことが起こる」
機械学習自動化プラットフォームを展開するデータロボットが開催した「DataRobot×パナソニック トークセッション〜日本の製造業におけるAI利活用の最前線〜」で、パナソニック ビジネスイノベーション本部 AIソリューションセンター 戦略企画部 部長の井上昭彦氏が登壇。同社におけるAI技術普及の取り組みなどについて語った。 - パナソニックが目指すAIの“使いこなし”とは
パナソニックがAI(人工知能)の活用に注力する姿勢を鮮明にしている。2017年4月に新設したビジネスイノベーション本部傘下のAIソリューションセンターは、AIの“使いこなし”を進めて、従来にない新たな事業の立ち上げも担当していく方針だ。同センター 戦略企画部 部長の井上昭彦氏に話を聞いた。 - パナソニックのくらしアップデート事業、元グーグルの松岡氏が推進担当に
パナソニックは2020年4月1日付で実施する役員人事と組織変更について発表。イノベーション推進部門は、新規部署として「くらしアップデート事業」を推進する「くらしアップデート推進本部」を新設する。同本部長にはグーグルから移籍したフェローの松岡陽子氏が就任する。