“柔軟に変化する生産ライン”のカギであるAGV、その価値と課題:いまさら聞けないスマートファクトリー(9)(4/4 ページ)
成果が出ないスマートファクトリーの課題を掘り下げ、より多くの製造業が成果を得られるようにするために、考え方を整理し分かりやすく紹介する本連載。前回から製造現場でつまずくポイントとその対策についてお伝えしていますが、第9回では、マスカスタマイゼーション実現のカギとみられる無人搬送車(AGV、AMR)について取り上げます。
「可変ライン」を実現するキーパーツ
もう1つ、将来の展望としてAGVが重要視されているのは、マスカスタマイゼーションを実現するために必要な「柔軟に可変するライン」を実現するカギだと思われているからなのよ。
どういうことですか。
マスカスタマイゼーションを行うには、受注に合わせて生産するものが変わるような仕組みが必要になるわ。ラインをその都度作り変えることは難しいから、ワークを作業工程ごとのワークステーション間で自由に行き来させながら作るワークショップ型のモノづくり体制が必要になるの。その“自由に行き来させるもの”としてAGVが期待されているのよ。
作業そのものは各ワークステーションで行うけれど、順番の変更などをAGVを使うことで自由に行えるようになるということですね。
インダストリー4.0で描かれる未来のスマート工場の姿。一方通行ではなくワークがワークステーション間を自律的に稼働し完成へと進んでいく姿が描かれている 出典:Final report of the Industrie 4.0 Working Group
こうした仕組みは一部では既に現実に採用されているわ。ただ、完全にこうした仕組みを導入するとワークがAGVに乗っている時間だけがどうしても長くなるので、どういうやり方が最適なのかはまだまだ検討の余地があると思うわ。
搬送の自動化や、柔軟な変更に対応するという面でAGVへの期待は非常に高まっています。しかし、工場の生産性を考えた場合、搬送している時間というのは非作業時間となり、価値を生んでいるわけではありません。そういう意味では、「搬送の自動化」をベースとして考えるのではなく、そもそも「搬送しない」仕組みを検討しつつ、残された領域で、搬送の自動化を進めていくという考えが求められていると考えます。
さて今回は製造現場において注目されているAGVの価値と課題について解説してきました。次回も、製造現場において失敗するパターンや見過ごされがちなポイントについてさらに掘り下げたいと考えています。
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