ソニーの着るクーラー「REON POCKET」はなぜ生まれたのか、2号機はもっと冷える:小寺信良が見た革新製品の舞台裏(18)(4/4 ページ)
ソニーのスタートアップの創出と事業運営を支援するSSAPから生まれたヒット商品である“着るクーラー”こと「REON POCKET」。その初号機の開発経緯から、直近で発売した2号機での改善点、そしてこれからの課題などについて開発担当者に聞いた。
製品単体での使用時間を伸ばしていきたい
―― 2号機が出たばかりで恐縮なんですが、この次のモデルと言いますか、今後の改善点や現状の課題というと、どういうところになりますか。
伊藤(健) 一番言われているのが、もう少し使用時間を長くしてほしいということですね。その需要が非常に多かったので、初号機をファームウェアアップデートすることで、モバイルバッテリーで外部給電できるようにしました。ただ、モバイルバッテリーをつなげて使うのも大変ということで、やはり製品単体での使用時間を伸ばす方向で検討しています。
―― 具体的には、バッテリー容量を増やしたり、効率を改善したりというところになると思いますけど。
伊藤(健) そこはカメラでも格闘してきた課題ですが、全体として消費電力を低減していく方向と、部品デバイスレベルで改良する方向と2通りあると思います。後は、制御としても工夫できるところがあるので、ソフトウェアの使い方も含めて、継続して検討しているところです。
―― ペルチェ素子も、ガツンと冷やす方向での進化はありそうですが、CPUほど熱くないものをユルユル冷やすという用途はこれまでなかったんじゃないかと思いますが。
伊藤(健) ペルチェ素子の開発もデバイスメーカーさんと協力しながらやっているところですけど、進化が決して早いとはいえない分野なんですよね。ただ昔に比べて飛躍的に向上したのは耐久性ですね。十数年くらい前から自動車にも採用されたと聞いてますし、飛躍的に信頼性が上がった感じがします。
伊藤(陽) それに、現状のデバイスのポテンシャルを100%引き出せているかというと、まだ検討の余地があるのではないかと思っています。高い電圧で駆動するしかない現状がありますが、われわれの使い方であればもう少し低電圧で駆動できる領域があると思うんですよね。そこが実現できればと思っています。
ペルチェ素子は、その昔PC自作が流行った時期に何度か扱ったことがあるが、ヒートシンク+冷却ファンでは冷やせないレベルのものを強制的に冷やすための部材であり、それを人体に使うというのはなかなか難易度が高い話である。
さらに言えば、カメラでペルチェ冷却しているものはほとんどない。そもそもは発熱するデバイスがあるから搭載されるものであり、「ペルチェを搭載すること自体が目的」のモバイル機器もなかった。REON POCKETは「新開発デバイス」は搭載していないが、ペルチェ素子という既存デバイスの「全く新しい使い道」を開拓したものといえるだろう。
しかし、REON POCKET 2までの流れの中で大発明はネックバンドではないだろうか。これにより、どんな服でもREON POCKETが利用できるようになった。対応ウェアもいろんなアパレルメーカーから出てはいるが、使おうと思ったらまず着替える、というのでは利用のモチベーションが下がる。お気に入りのTシャツじゃダメなの? という不満を一発で解消してくれるアクセサリーだ。
この夏、ワーケーションなど自宅外で仕事をするケースも出てくると思うが、人があまりいない場所を探して出掛けるという機会は、以前より飛躍的に増えている。そしてそうした場所には大抵エアコンなどはないだろうし、あったとしてもたった1人を冷やすためにエアコンをガンガンに使うというのもはばかられる。
「暑い夏を快適に過ごす」というシンプルな目的のためのIoTデバイスといえば、これまでUSB扇風機止まりだった。REON POCKETのような時代に寄り添う製品は、社会的にも歓迎されるだろう。
筆者紹介
小寺信良(こでら のぶよし)
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手掛けたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Twitterアカウントは@Nob_Kodera
近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)
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