曲がるだけじゃない、PCの新ジャンルを切り開く「ThinkPad X1 Fold」の価値:小寺信良が見た革新製品の舞台裏(17)(1/4 ページ)
いわゆる「曲がるディスプレイ」を搭載した製品が2019年から市場投入され始めている。レノボが2020年10月に発売した折りたたみ可能なPC「ThinkPad X1 Fold」は、単に折りたたみ可能なだけではない、コロナ禍の中でPCの新ジャンルを切り開く可能性を持つ製品に仕上がっている。
いわゆる「曲がるディスプレイ」は、電子ペーパーやOLED(有機EL)といった液晶パネル以外のディスプレイにおいて、メリットの1つとして早くから訴求されてきた。展示会などの技術展示で見かける機会は多かったが、具体的な製品イメージとして注目されたのは、2019年の「CES」でLG電子が発表した、「ロール状に画面が巻けるテレビ」あたりからではないだろうか。こちらは2020年10月に韓国で実際に販売が開始された。
一方、スマートフォンでは、2019年より同じくサムスン電子が「Galaxy Fold」を投入したのを皮切りに、続く2020年にもさらに2モデルを投入し、話題になっているところだ。
そんな中、PCでも2020年10月にレノボ(Lenovo)が折りたたみ可能な「ThinkPad X1 Fold(以下、X1 Fold)」を発売した。執筆時点での公式サイト直販価格は32万7426円から。展開すれば13.3インチで、折りたためば半分のサイズになる。もちろんPCとしては、世界初である。
筆者も製品をお借りして試用しているところだが、細かいところまで矛盾なく仕上げた、モノとしての完成度に驚いた。おそらく、「曲がるディスプレイがあるね」→「これでパソコン作れるんじゃね?」というところからスタートしたら、ここまで微に入り細に渡ってスキのない製品には仕上がらないはずである。
「未来のコンピュータ」はSFの中でも多数登場するが、X1 Foldは今現実に手に入る未来のPCだ。IBM時代から「ThinkPad」の研究開発拠点として知られるレノボ・ジャパンの大和研究所(横浜市みなとみらい地区)でX1 Foldの開発を統括した、同社 システムイノベーション エグゼクティブディレクター Distinguished Engineerの塚本泰通氏にお話を伺うことができた。
「2つに折る」という苦難
―― 今実際に手元で製品を触りながらお話を伺うんですが、曲がるディスプレイがあるからそれでPCを、という方向性と、未来のPCってなんだろうという方向性から詰めていった流れと2通りが想像できるんですよね。X1 Foldはどちらの流れだったんでしょう。
塚本泰通氏(以下、塚本) これはもう、後者ですね。われわれ自体も本当に、PCの未来像ってことを2014年に社内で危機感を覚えて、話を始めたんですね。
その当時のThinkPadは、ちょうど25周年に差し掛かろうかって年で(初代ThinkPadの発売は1992年10月)。どういう時代だったかっていうと、スマホが出始めて結構便利じゃんてことになってきた。タブレット端末も出てきて、もうPCなんていらないよ、って言われ出した時代です。PC業界も、ディスプレイを分離可能なデタッチャブルPCや、レノボでも「Yogaシリーズ」など、いろんなバリエーションを出した。みんな使い道に応じて持ち歩いてくれるんですが、それでも「PCはもういらないかな」って言われ始めたのが、2014年あたりだった気がするんですよ。
―― ああ、確かにその時期、僕もそういう記事をいっぱい書いていたような気がします(苦笑)。ただ、当時PCの重量やバッテリーの持ちを考えると、出掛けるときはもうスマホ、タブレットでいいかな、というのは本音だったと思うんです。
塚本 そうなんですよ。いざというときにPCは使わない。手元にないから。スマホはずっとネットにつながっているし、いつでも手元にあるし、メールも仕事もちょっと打ちにくいけどもそれしかないから、無理してやっていたらそれにみんな慣れてきて、アプリケーションも追い付いてきて、これでいいじゃん、ってなりつつあると。
やっぱりPCはいつでも持ち歩いてもらえないっていうのは罪の部分なんだろうなと思ったんですね。例えば、女性にしても、男性でもそうですが、おしゃれな小さいカバンで行きたいんだけど、PCを持って行くってなった瞬間にハードルが上がる。外で仕事しないといけないから、こっちのカバンじゃだめだ、こっちにしようと、何か制限が生まれるような状態というのを感じていて。そこを何とかしたいと思ったんですね。
その中で、やっぱり小さく運んで大きく使えるような、「Carry Small、Use Big」って僕ら呼んでいたんですけど、そういうの作りたいといろいろ考えているときに、LG電子さんが曲がるディスプレイを作れないかなってやっていて、誰かパートナーを探していると。で、多分いろんなとこに声かけたと思うんですけど、われわれもちょうどそういうことを考えていたところなので、それは一緒に考えていきましょうと。
だから曲がるディスプレイがあるから始まったんじゃなくて、僕らが小さくて運べて、当然そこには折り曲がるっていうのが僕らの夢としてずっとあったんです。
―― 持ち運ぶときにコンパクトに、ということでは、LGのテレビみたいに「巻く」という考え方もあったと思うんですが、2つに折るというところに落ち着いたのはどういう理由でしょう。
塚本 技術的に一番シンプル、というところもあるんですけど、PC自体がもともとパカって開けて使うものだと。その意味では、ユーザーからはなじみのある動きなんですね。
―― OLED自体は、真ん中だけじゃなくてどこでも曲がるんですか。
塚本 曲がります。全体はペラペラで、そこにタッチレイヤーなど10層以上重ねてあるんですけど、裏にメタルシートとカーボンファイバーが入っています。これ、日本の技術を使って作っている、とても硬いカーボンファイバーなんです。このカーボンファイバーにたどり着くまでに何種類だっていうぐらいいろいろ試して、ここだけで3年ぐらいかかっています。
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