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コロナ禍で加速するライブ中継の革新、ソニーのスイッチャーはなぜクラウド化したのか小寺信良が見た革新製品の舞台裏(19)(1/4 ページ)

2年ぶりのリアル開催となった「Inter BEE 2021」で注目すべきトレンドになったのが、従来ハードウェアでしか考えられなかった映像切替装置である「スイッチャー」について、大手各社がほとんど同時ともいえるタイミングでクラウド化に踏み切ったことだろう。その1社であるソニーのクラウドスイッチャー「M2 Live」の開発者に話を聞いた。

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 2021年11月17〜19日、毎年恒例の映像機器展示会「Inter BEE 2021」が幕張メッセで開催された。毎年恒例とはいえ、2020年はコロナ禍の影響でオンライン開催のみだったので、リアルの展示会は2年ぶりということになる。

2年ぶりの開催となった「Inter BEE 20201」
2年ぶりの開催となった「Inter BEE 20201」[クリックで拡大]

 リアル展示会の良さは、各社のソリューションが同時に見られることだ。そこでつかんだ2021年のトレンドは、従来ハードウェアでしか考えられなかった映像切替装置である「スイッチャー」が、各社ともクラウド上で動くソフトウェアへと転換したことだろう。

 従来スイッチャーというのは、複数のカメラをケーブルでつなぐものである。これはアナログからデジタルまで変わらないが、数年前から一部では映像ケーブルの代わりにネットワークケーブルを使う「IP伝送」が使われ始めた。

 こうした動きは世界的な潮流だが、日本はどちらかといえばこうした新しい取り組みには消極的である。そんな中、今回のInter BEE 2021では、ワイヤレスでカメラ映像を直接クラウド上に伝送し、映像切替もクラウド上で行うことで、ネットへのライブ映像配信を効率化しようという動きが出てきた。

 大型スイッチャーメーカーに限定すると、2021年の展示でGrassValleyは「AMPP(Agile Media Processing Platform)」を、パナソニックは「KAIROS クラウドサービス」を、ソニーは「M2 Live」をそれぞれお披露目した。大手放送機器メーカーが、ほとんど同時ともいえるタイミングでスイッチャーのクラウド化へ踏み切ったのはなぜだろうか。そんな質問を、ソニーでM2 Liveの開発やマーケティングを担当した皆さんにぶつけてみた。

2022年4月から提供が開始されるクラウド中継システム「M2 Live」の画面
2022年4月から提供が開始されるクラウド中継システム「M2 Live」の画面[クリックで拡大]

 今回お話を伺ったのは、ソニーマーケティング B2Bプロダクツ&ソリューション本部 B2Bビジネス部 統括部長の小貝肇氏、ソニー イメージングプロダクツ&ソリューションズ事業本部 商品企画部門 商品企画3部 2課の前川秀樹氏、同事業本部 システム・ソフトウェア技術センター ソフトウェア技術第3部門 イメージングクラウド開発1部 3課の染谷賢久氏のお三方である。

連載「小寺信良が見た革新製品の舞台裏」バックナンバー

なぜ一斉にクラウド化?

―― まず、M2 Liveというプロダクトについて簡単にご説明いただけますか。

ソニーマーケティングの小貝肇氏
映像機器ビジネスを統括するソニーマーケティング B2Bビジネス部 統括部長の小貝肇氏

小貝肇氏(以下、小貝) そもそもスイッチャーというのは、映像制作業界、特にテレビ放送を中心とした業界の中で、映像を切り替えたり効果を付けたりということをリアルタイムで行うという、重要なポジションにあります。それ故にスポーツ中継などのライブ番組において、放送局やスタジアム内の映像をほぼ遅延なしにお茶の間に届けるというところで、非常に高度な映像信号処理を、ハードウェアの専用プロセッサの力を使ってやっていました。

 M2 Liveはそれと同じことを、クラウド上で実現するソフトウェアということになります。ほぼ遅延がない状態で映像を処理しなければいけないという点で、ノンリニア編集ソフトをはじめ、世の中にあるさまざまな映像処理ソフトウェアとの一番大きな違いになるかと思います。

―― 今回のInter BEE 2021では、御社を含めた大手が一斉にクラウド上で動くスイッチャーソリューションを出展して、驚きました。これまではハードウェアでしか考えられなかったものが、急にクラウド化された理由というのはなぜでしょうか。

小貝 1つはさまざまなクラウド基盤のCPU/GPUが進化してきているということで、HD信号のリアルタイム処理にめどが立ったというところはあると思います。

ソニーの染谷賢久氏
「M2 Live」のソフトウェア部分を開発したソニー イメージングクラウド開発1部 3課の染谷賢久氏

染谷賢久氏(以下、染谷) GPU処理もそうなんですけれども、クラウド上で映像のエンコード/デコード処理を行う際に、ハードウェアで処理をアシストできる基盤を整備されている事業者さんが結構ありまして、そこの処理が軽くなったんですよね。クラウドに上げるときに圧縮して上げられるから帯域が取れるんです。低圧縮だとそこの帯域で失速してしまいますので、高圧縮で上げてハードで解けるっていう基盤が用意されてきたっていうのが大きいですね。

小貝 もう1つは、やはり社会情勢として新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、いかにリモートで映像制作環境を実現するのかというニーズが高まっているところがありますね。収録、編集、加工してOA(オンエア)するという領域では既にクラウド活用が広がっている中、今回お話しさせていただいている「ライブ」と呼ばれる映像制作領域でも、リモートでのニーズの高まりが大きくなっているんじゃないのかと思っています。

ソニーの前川秀樹氏
ライブスイッチャーの商品企画を担当するソニー 商品企画3部 2課の前川秀樹氏

前川秀樹氏(以下、前川) それに加えて、配信形態の多様化というのもあると思います。いろんなプラットフォーム向けのプログラムを予算をかけずに制作したいということを含めた3つがそろったのかなっていう感じはしてますね。

小貝 コンテンツを提供されている方が、今後はより多く、2個も3個もあちこちのプラットフォームに出していかなきゃいけないっていうのは、今後どんどん増えてくると思います。配信プラットフォームが多様化する中で、それに合わせたオペレーションをどんどんクラウド側にオフロードしていく、バリエーションが増えていく形になる。結果的に一般視聴者の方に対して、多様なプラットフォームでご視聴いただける形になるんじゃないのかなと思いますね。

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