【総まとめ】設計業務のデジタル変革を助ける3Dプリンタ&3Dスキャナー活用術:デジファブ技術を設計業務でどう生かす?(13)(2/2 ページ)
3Dプリンタや3Dスキャナー、3D CADやCGツールなど、より手軽に安価に利用できるようになってきたデジタルファブリケーション技術に着目し、本格的な設計業務の中で、これらをどのように活用すべきかを提示する連載。最終回となる第13回は、これまで解説してきたデジファブ技術活用の内容から特に重要なポイントをピックアップし、“総まとめ”としてお届けする。
総まとめ(2):3Dスキャナーの活用
3Dスキャナーの活用では、「検査(CAT:Computer Aided Testing)」と「リバースエンジニアリング」による設計者の働き方改革の実現について紹介しました。
3Dスキャナーの選定では、接触式/非接触式などの方式による違いがある他、色取得の可否や位置基準に必要なマーカーの有無、パウダーの塗布、キャリブレーション/メンテナンス、ポータブル性といったポイントを踏まえて、用途に適した機材を選びましょう。その際、精度や解像度、測定速度、測定範囲といった性能に関するカタログ記載が、メーカーによって異なる点も注意しなければなりません(連載第9回:いまさら聞けない 3Dスキャナーの選定基準)。
また、3Dプリンタと同様に、3Dスキャナーを活用する際は、機器本体だけでなく、ソフトウェアも重要となります。3Dスキャンしたデータは基本的にそのままの状態では使うことができず、ソフトウェアによるデータの後処理が伴います。詳しい解説については、連載第10回「そのままでは使えない!? 3Dスキャン後に必要となるデータ処理」をご覧ください。
データ処理後の代表的な活用方法の1つとして、検査があります。その際に使用する検査ソフトウェアですが、当然ながら選定するソフトウェアによって機能に違いがあります。検査ソフトウェアの選定ポイントとしては「位置合わせ機能」「検査機能」「レポート生成機能」「無償版の有無」が挙げられます。3Dスキャナーを活用した検査によって、これまで検査のために作成していた2次元図面を用意する必要がなくなり、“図面レス化”の実現による、製造業DXの第一歩を踏み出すことができます。
そして、もう1つの活用がリバースエンジニアリングです。連載第12回「設計力を高める! 3Dスキャナーを活用したリバースエンジニアリングによるDX」では、メッシュ(STL)データから3D CADデータを作成するソフトウェアの機能について解説しました。具体的には、座標原点を合わせて、面構成を作成し、面を生成するという流れになりますが、3D CAD面の生成に関しては、主に「自動面貼りタイプ」「手動面貼りタイプ」「ソリッドモデリングタイプ」の3種類のアプローチがあります。このリバースエンジニアリングをうまく活用すれば、設計力の向上にも役立てることができます。
ノギスなどで計測するには時間がかかり、自由曲面のような計測が困難なものでも、3Dスキャナーを活用した検査やリバースエンジニアリングによって、時間短縮や品質向上が期待できます。3Dスキャナーの活用は、これまでの設計手法を変える1つの革新的なアプローチであり、モノづくりにおけるDXとして考えることができます。
デジファブ技術を設計業務で生かすことで見えてくる新しい働き方
連載第1回「設計者の働き方が変わる!? デジファブ技術が設計業務にもたらすインパクト」で触れた通り、本格化するデジファブ技術の活用によって、設計業務が新たな時代へと変革していきます。
GoogleやApple、Facebookなどは、自由な働き方を実践していることで有名ですが、今後はメカ設計者が働く環境も“自由さ”が求められるのではないでしょうか。先ほど、3Dプリンタを気軽に活用できる“遊び場”を社内に設けるべきだというお話をしましたが、全てを制約やルール、過去の慣習で縛り付けるのではなく、自由な働き方ができる環境を整備し、新たな発想やアイデアの創出につなげることが、より良い製品開発を実現する近道だと思います。そして、その活動を後押しするのがデジタル技術であり、デジファブ技術なのです。
もちろん、全てのデジタル技術/デジファブ技術が完成されたものではありませんが、変革を自ら起こすためには失敗を恐れずに「まずやってみる」という姿勢が大切だと思います。失敗が許されない企業風土が残る現場もまだ多いでしょうが、成功するまで続ければ、一つ一つの失敗は成功への過程となります。また、仮にその成果が小さなものであってもそれを積み重ね、範囲を広げていくことで大きな成功につなげることができるはずです。
メカ設計者の皆さん、どうかデジファブ技術をオモチャだと軽視せず、ご自身の業務の中でどのように活用できるかをあらためて検討してみてください。本連載が今後の設計者の働き方について考えるきっかけとなり、設計業務の効率化、そして、改善から変革へと役立ててもらえたら幸いです。約1年間、本連載にお付き合いくださり誠にありがとうございました! (連載完)
筆者プロフィール
小原照記(おばら てるき)
いわてデジタルエンジニア育成センターのセンター長、3次元設計能力検定協会の理事も務める。3D CADを中心とした講習会を小学生から大人まで幅広い世代の人に行い、3Dデータを活用できる人材を増やす活動をしている。また企業の困り事に対し、デジタルツールを使って支援している。人は宝、財産であると考え、時代に対応する、即戦力になれる人財、また、時代を創るプロフェッショナルな人財の育成を目指している。優秀な人財がいるところには、仕事が集まり、人が集まって、より魅力ある街になっていくと考えて地方でもできること、地方だからできることを考えて日々活動している。
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