脱炭素に向けた日本の自動車政策はどう進む、「欧州に追従する必要はない」:カーボンニュートラルに向けた自動車政策検討会(4)(2/2 ページ)
国土交通省と経済産業省は2021年5月19日、「カーボンニュートラルに向けた自動車政策検討会」の第5回の会合を開き、業界団体などを対象としたヒアリングの結果をまとめた。
水素ステーションや充電器などの導入拡大については、建設と設備導入のコストや運営費への支援、インフラの最適配置や老朽化設備の更新、超高速充電器の設置、不採算箇所への補助などが求められた。充電器は集合住宅や商業施設、公開空地、公道への設置、補助条件の15km制限の緩和、24時間営業など規制緩和が課題となる。水素ステーションは、法定点検や保安監督者要件、常用圧の引き上げ、障壁基準緩和など規制の適正化や、大型車対応などが導入拡大に向けた鍵となる。
カーボンニュートラルに向けたサプライチェーンやバリューチェーンの強化では、中小製造業やディーラー、整備事業者などの事業転換の支援も不可欠だ。具体的には、電動化に挑戦する中小企業の技術開発や設備投資への支援、内燃機関関連領域の効率化への支援、相談体制の整備の他、車体工業の電動化に必要な情報の展開、ディーラーの電動化対応・事業転換支援、整備業の電動化対応支援などがある。バリューチェーンでは、中古車の電動車やバッテリー残存価格の適正評価も重要な役割を果たす。
クルマの使い方の変革をどう起こすか
蓄電池もヒアリング対象だった。委員の稲葉氏は「日本の蓄電池は2000年代半ばまで特に小型用途で世界のトップランナーだった。その後、中国と韓国が追い上げ、EV用の大型蓄電池では日本は後れを取っている。このまま半導体や太陽光パネルの二の舞にならないか懸念している。蓄電池の低コスト化は国際競争力において重要で、原料からリサイクルまでサプライチェーンに投資の支援が必要だ。自動車だけでなく蓄電池も日本にとって必要な産業だ。電動化が進んでも蓄電池が外国製という残念な結果にならないように政策を定めてほしい」と述べた。
蓄電池分野における競争力強化の具体的な要望としては、部素材や電池サプライチェーンに関する投資の支援、電池原料となるLiやNi、Co、天然黒鉛、LiPF6の確保促進に加えて、資源開発初期での保証拡充、鉱山事業への支援拡大、税制優遇措置、外交支援などが挙がった。また、リサイクル材の使用に関するインセンティブやルール形成における政府連携など経済合理性のある電池リサイクルの仕組みづくり、電池パックの価格低減(1kWh当たり1万円)に向けた研究開発支援なども不可欠だとされている。蓄電池に関する国際標準化活動の支援や、蓄電池の需要を示すEVの導入見通しの提示などもテーマとなる。
クルマの使い方の変革についても、カーボンニュートラルに向けた自動車政策検討会で言及された。移動する人数や距離に応じて最小の車両を選択してCO2排出を削減する“ダウンサイジング”の他、物流での中継輸送やリレー方式、トラックから鉄道や船舶へのモーダルシフト、輸送分担率を変えるためのインフラ整備などが例に上がった。クルマの使い方や物流のさまざまな用途に応じた選択肢を用意する必要がある。
これに関して、カーボンニュートラルに向けた自動車政策検討会の委員である石田東生氏(筑波大学 名誉教授)は、クルマの使い方を変えていくには街(町)づくりとの連携が必要だと訴えた。「軽自動車や小型車は走行性能や安全性能を向上させる中で排気量や車両のサイズが大きくなってきた。モビリティのダウンサイジングを進めるには、新しい価値観やライフスタイル、街づくりとの連携の提案がもう少しあってもいいのではないか。日本の基準の『超小型モビリティ』よりも小さく遅いクルマが海外では取り入れられようとしているが、米国やフランスは都市計画とセットでマイクロモビリティの出番を作っている」と述べた。また、ヒアリングでは「2050年を考えたビジョンから逆算して今何をするか、という議論が弱かった。新しいものを考えていくという積極性をもう少し打ち出したい」(石田氏)と指摘した。
カーボンフリーなエネルギーの活用は連携が不可欠
この他、公平で国際的に整合されたLCA(Life Cycle Assessment)の方法の確立、製造段階を含めたCO2排出量に関する公平で透明な情報提供や評価への支援、製造プロセスにおけるCO2排出削減技術やリサイクル・リユース技術の開発や設備投資への支援なども課題に上がった。
多くの業界団体からは、カーボンフリーな電力を安定的かつ安価に供給することを求める声が寄せられた。これについて、委員の石田氏は「カーボンフリーな電力の導入は、原子力発電や水素エネルギー、スマートシティとも絡んでくる。自動車産業だけでは実現できないので、連携というキーワードが政策に必要だ」と指摘した。
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