自動車のカーボンニュートラルに向けた課題は? インフラ企業と自治体が訴え:カーボンニュートラルに向けた自動車政策検討会(1)(1/2 ページ)
国土交通省と経済産業省は2021年3月8日、「カーボンニュートラルに向けた自動車政策検討会」の第1回の会合を開催した。同検討会では、2020年末に経済産業省が中心となって発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の実現に向けた、自動車分野での取り組みを検討する。
国土交通省と経済産業省は2021年3月8日、「カーボンニュートラルに向けた自動車政策検討会」の第1回の会合を開催した。同検討会では、2020年末に経済産業省が中心となって発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の実現に向けた、自動車分野での取り組みを検討する。
第1回は自治体から長野県と横浜市、電気自動車(EV)の充電インフラを整備するe-Mobility Power、燃料電池車(FCV)向けの水素ステーションを普及させる日本水素ステーションネットワークが出席し、それぞれの立場から見たカーボンニュートラルへの課題を説明した。
設備更新のピークを迎える既存の充電器、10年後を見据えてどう更新するか
東京電力ホールディングスと中部電力の共同出資で2019年10月に設立されたe-Mobility Powerは、全国に普及したかのように見えるEVの充電インフラに、現在も整備上の課題があることを訴えた。
トヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、三菱自動車の資金と国の補助金によってEVの充電インフラが整備されてきたが、現在も経路と面の両方に空白があるという。10km四方の範囲に急速充電器が0基というエリアが、北海道や東北などを中心に残っている。1万世帯以上が暮らす居住地域でも、5km四方の範囲に充電器がないエリアは120カ所ある。一方、都心部は10km四方に急速充電器が11基以上あるというエリアも少なくないが、有料駐車場や自動車販売店に設置されているケースが多く、気軽に使える充電器が意外と少ないのが現状だ。また、都心部は駐車場のない店舗や建物が多く、充電器を新設できるスペースが不足しているという課題もある。
また、高速道路で70km以上にわたってサービスエリアやパーキングエリアに充電器が設置されていない区間は、全国に18カ所ある。国道や県道など主要な道路で充電器がない区間が40km以上あるケースは、全国で60カ所に上る。さらに、70km以上の空白区間は44カ所、100km以上の空白区間は11カ所ある。
充電器が不足しているエリアをなくしていくだけでなく、既存の充電インフラの更新も進めなければならない。2012年度の大型補助金などを契機に、2014年ごろから急速に普及したインフラの更新が今後数年でピークを迎える。既存の充電器は8〜10年で老朽化が進むためだ。e-Mobility Powerは、トヨタなど自動車メーカー4社が中心となって設立した日本充電サービスから事業を引き継ぎ、2021年4月から充電器の更新と拡充を推進する。
充電インフラの更新や拡充に当たっては、稼働率を踏まえて充電待ち渋滞を起こさないことも前提にしなければならない。例えば、自動車販売店やコンビニエンスストア、大規模小売店舗、高速道路のサービスエリアやパーキングエリアは急速充電器の稼働率が特に高い傾向にある。e-Mobility Powerの試算では、平均稼働率の実績が20%を超えると、充電待ち渋滞が発生する時間帯が増えるという。また、すでに一定の稼働率のある利便性の高い充電器は、今後のEV普及によって稼働率が大幅に上昇すると予測している。
充電インフラの更新では、現在の稼働状況と今後の稼働率を見据えて、1基で複数台のEVを充電できる多数口タイプや2口タイプに増強することが充電待ち渋滞の解消に不可欠だとしている。一方で、稼働率が低い充電器が同じエリアに複数ある場合は効率化も必要になる。2021年秋には、高速道路のサービスエリア向けに6口タイプの急速充電器を設置する計画だ。e-Mobility Powerと東京電力、ニチコンで共同開発した製品だ。
e-Mobility Powerは、「充電器が近くにある」という安心感がEVの走行範囲拡大に効果的であるという考えだ。東京電力の業務車両のEVが、エリア内に充電器を増設したことで走行範囲が大きく広がったという経験に基づいている。そのため、充電器は稼働率だけでなく、「存在することの価値」も評価するべきであるという。単体での採算や稼働率を見て充電器の設置場所を決めても充電がサービスとして成立するのは難しく、「どこでも充電できる」という状態を整えることが必須だとしている。
政策には採算性の低いエリアでの充電器の整備に対する補助を求めるとともに、公共充電サービスがビジネスとして自立し持続可能な状態になるには、100万〜150万台のEVが普及することが必要であると訴えた。
水素ステーションの自立に向けた好循環に支援を
水素ステーションの普及に向けて、自動車メーカーやインフラ事業者などが協力する日本水素ステーションネットワーク(JHyM)は、水素ステーションがビジネスとして自立するための好循環の実現を課題に挙げた。水素ステーションの数が増え、最適な配置となることでユーザーの利便性が向上し、FCVの販売が拡大するという循環を目指しているが、東京都内の水素ステーションであっても自立には遠いのが現状だ。
これまでは利益を度外視して水素ステーションを増やし、人口の多い都府県では整備が進んでいる(水素ステーション未整備なのは残り12県)。利益を出すには、水素ステーション1カ所当たり900台が利用する必要があるが、水素ステーション1カ所当たりのFCVの台数は東京都で73.2台、全国平均でも31.7台であるという。水素ステーションの整備コストも高い。
好循環を実現するには、FCVの販売台数増加と水素ステーションのコスト低減、水素自体のコストダウンが同時に進む必要があり、規制の最適化や補助金などによる国からの誘導が必要であると訴えた。水素の使用量が多く、水素ステーションの経営安定化に貢献するとして、商用車タイプのFCVの普及にも期待を寄せた。商用車でFCVが使われるには、車両の購入補助に加えて、軽油と等価とするための支援も必要だとしている。
水素ステーションのコスト低減には、常用圧を87.5MPaに引き上げることで蓄圧タンクの本数を減らす他、安全な運営を大前提に、法廷点検のペースをゆるめたり、保安監督者が常駐せず遠隔から対応できるようにしたりすることが必要であると要望を述べている。水素の製造や輸送のコスト低減につながる施策も求めた。
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