「モノ」から「コト」そして「ヒト」へ、ビームスが進める転換:モノづくり最前線レポート
ファッションワールド東京(2021年3月23〜25日、東京ビッグサイト)において、ビームス 取締役 開発事業本部 本部長 クリエイティブディレクターの窪浩志氏が「BEAMS(ビームス)のPB戦略とものづくり」をテーマに特別講演を行った。講演ではワクワクドキドキ感や面白さを追求する中で生まれた具体的なヒット事例をもとに、ビームスの商品戦略の原点を紹介した。
ファッションワールド東京(2021年3月23〜25日、東京ビッグサイト)において、ビームス 取締役 開発事業本部 本部長 クリエイティブディレクターの窪浩志氏が「BEAMS(ビームス)のPB(プライベートブランド)戦略とものづくり」をテーマに特別講演を行った。講演ではワクワクドキドキ感や面白さを追求する中で生まれた具体的なヒット事例をもとに、ビームスの商品戦略の原点を紹介した。
PBブランドとオリジナルブランドの利点
ビームスは1976年に、アメリカンライフショップとして東京・原宿に誕生した。オープン後、約10年間は西海岸のライフスタイルを紹介し、その後東海岸の「アイビー」やイタリア、フランス、英国(ロンドンファッション)などの欧州のファッションへも対象を広げ、ファッション製品を展開してきた。
同社のPBブランド戦略では、セレクトショップという業態を生かして買い付け商品を増やすことで売り場をにぎわせ、人気ブランドとしてファンに訴求できる点などをポイントとしている。一方で、PB製品としてそろえた商品の多くが、売れ行きが良かったとしても追加できない他、利益が上がりにくいデメリットなども抱えている。
一方で、オリジナルブランドの開発についても強化しており、PBと相互補完を行う。オリジナルブランド製品は、マーケットインで消費者ニーズを直接得て、製品の企画面、サイズ面などを調整ができる。また、コストを抑えて利益率を上げることができる他、在庫の安定供給が可能になる。
また、PBブランドの他、既存ブランドに独自企画製品をコラボレーションで別注する手法なども展開している。「例えば、マウンテンクライミングパンツを得意とする『Gramicci(グラミチ)』には、あえてスカートを作ってもらうなどありそうでなかったものを開発し、送り出した」(窪氏)。リーバイスやナイキともコラボレーションを行い、世界的に話題となりブランディングにも貢献した。
「モノ」から「コト」、そして「ヒト」へ
これらの取り組みに加え、ファッションにとどまらない新たなコラボレーションを広げている。ビームスでは、創業40周年を迎えた2016年に新宿にビームスジャパンを出店した。日本をキーワードに「食」「銘品」「ファッション」「コラボレーション」「カルチャー」「アート」「クラフト」の構成で日本のさまざまな魅力を国内外に発信している。
これは、海外で日本製の製品が目についたことで、欧米のモノだけでなく、日本の製品についても研究し、あらためて日本文化も紹介するという目的で開設したものだ。日本の名産を研究し、光を当てることで消費者に魅力ある商品を提供している。企業、団体、地方自治体とのコラボレーションを行う。例えば、旭化成ホームプロダクツが日本で販売する「Ziploc(ジップロック)」を用いたトートバッグ、リュックサック、サコッシュ、サンバイザー、ポーチ、傘などを展開している。
さらにJAXA(宇宙航空研究開発機構)と連携して国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在する際に着用する被服を日本の民間企業としてはじめて製作プロデュースし、そのレプリカ版を商品販売するなどさまざまな仕掛けを行っている。これまでの「典型的なアパレル業界」だけでなく「モノよりもコト」に重点を置いた新たな取り組みを進めている。そして、今後はさらに「コトから、またヒトへ」という戦略を進める考えだ。その理由について窪氏は「EC(electronic commerce)が発達する中での『店持ち小売りの限界』がある」と懸念点を示す。
「ヒト」への取り組みの1つとして、社員の趣味や特技を拾い上げて、それをきっかけにしてモノにつなげるという施策を開始した。例えば、あるスタッフはサーフィンが趣味で、社内でさまざまな企画を提案していたが、そのスタッフを中心に原宿本店内にコーナーを設置。独自でプランニングをして商品展開にこぎつけ、販売に結び付ける動きにつながっている。また、人間関係で広いネットワークを持つ社員は、ラジオ番組をスタートした上で子会社を設立し、エンターテインメント戦略を始める計画を立てている。この他、社内にはサブカルチャーに興味を持つスタッフが多いことから、開発事業本部内にサブカル企画開発部を設けて、アイドルやキャラクターとのコラボによるグッズ販売を展開している。
これらのように「ヒト」を基軸に「コト」を生み出し、それを「モノ」につなげていく取り組みを推進している。窪氏は「小売店舗はコミュニティー拠点と捉える発想の転換を進める。例えば、顧客がスタッフに会いに来る場所と位置付け、会いに行きたくなるような仕掛けを行う」と語る。また、その一環としてスタッフの生活スタイルを紹介する書籍「BEAMS AT HOME」を作成し、現在5巻まで発行し合計29万部を売り上げるなど好評を得ているという。
DXへの取り組み
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策としてDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みも強化する。ビームスでは2019年夏に約2000人の店舗スタッフ全員にiPhoneを支給し、グループウェアサービスで在庫検索を行ったり、スタッフと顧客とのコミュニケーションなどに活用したりしている。スタッフが店にいながら、自分たちのスタイリングを紹介し、それを客が見ることでECによる売り上げに結び付けることを目指すもので、窪氏によると「このスタッフ投稿からECにつなげる方程式が重要になってきている」という。
さらにブログを使った、商品の文化、歴史背景を紹介する形で商品を訴求。ある人気映画の主人公が身に着けていた時計を紹介したところ大きな反響を得て、販売にも寄与するなどの成功事例が生まれている。こうした取り組みで、コロナ禍で店舗を閉鎖していた2020年4〜5月の2カ月間におけるEC売り上げ30億円の内、20億円がスタッフ投稿を起点としたものになったという。店舗再開後も投稿を見た顧客がスタッフに会いに来るなどのケースも頻繁に見られ「ヒト」を中心とした取り組みとデジタル技術を組み合わせた取り組みが奏功しつつあるという。
今後の戦略については、DX、SDGsへの対応、B2Bビジネスのさらなる強化(小売りだけに頼らない)、スタッフによるファン作りを引き続き強化する。これらの取り組みを進めることで「プライスを超える価値作りを進めていきたい」と窪氏は述べている。
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