2020年度の業績発表がスタート、自動車メーカーの決算のみどころは:いまさら聞けない自動車業界用語(13)(2/2 ページ)
今回は自動車メーカーの決算の注目ポイントについて説明します。決算の数字を把握しておくことは、自動車業界で働く上で非常に重要です。
自動車メーカーの腕の見せどころ「原価改善」
日本の自動車メーカーの十八番として思い浮かぶのが「原価改善」です。「乾いた雑巾をさらに絞る」ともいわれる原価の作り込みは、自動車メーカーの競争力の源泉です。毎年原価改善が行われ、非常に大きな効果を上げています。2020年度はコロナ禍で販売台数が落ち込む中、利益を上げるためにこれまで以上に強い原価改善が推し進められました。
2020年4〜12月期の決算を見てみると、トヨタ自動車の原価改善は1000億円、ホンダは二輪事業やライフクリエーション事業も含めた原価改善が1023億円でした。日産自動車は製造コストや固定費、その他のコストに関して一過性の項目も含めて2035億円の削減を達成し、通期の営業赤字を縮小しようとしています。
決算発表や会見の際に原価改善の具体的な内容について触れられることも多く、自動車業界で働く人ならぜひとも個別の中身を知っておきたい項目です。
製造業だけど「金融部門」も収益の柱
実は自動車メーカーにとって金融部門、つまりリースやローンでの利益は非常に大きく、無視することのできない収益の柱の1つです。皆さんもクルマを買うときに、自動車ローンや残価設定型ローンなどを提案されたことがあるのではないでしょうか。
金融事業は売り上げに対する利益率が高いので、営業利益ベースにすると貢献の割合は非常に高くなります。例えばトヨタの2020年4〜12月期の決算では営業利益は1兆5079億円で、このうち金融セグメントの営業利益が3553億円と全体の24%も占めています。自動車販売だけでなく、金利で稼ぐビジネスも経営を考える上では欠かすことのできない要素です。
2021年度の通期見通しでチェックしたい3つのポイント
決算発表と合わせ、通期見通しも発表がなされます。今回発表される2021年度の見通しでぜひともチェックしておきたい3つのポイントがあります。1つ目は為替レートです。日本の自動車は輸出産業であるため、為替レートによって利益が大きく変動します。トヨタであれば1円円高になるだけで営業利益が400億円押し下げられるといわれています。
2021年になってから為替は大きく変動しており、年初は1ドル=103円ほどでしたが、4月初めには1ドル=110円にまで円安が進みました。自動車メーカー各社が今期の為替レートをいくらに設定しているのか、そして実際のレートはどのようになっているのか、これを確認することで利益面をある程度予測することができます。
2つ目は、現在問題となっている半導体の供給不足を通期見通しとしてどの程度織り込んでいるのかという点です。日を追うごとに半導体不足を理由に自動車メーカーが減産するニュースが増えています。
半導体はただでさえ世界的に供給が逼迫(ひっぱく)する中、3月にはルネサス エレクトロニクスの那珂工場で火災が起き、状況はさらに悪化しています。半導体の供給不足について2021年上期中は継続するといった見通しも出ており、業績に対する影響は計り知れません。半導体の供給不足が解消すれば、挽回して売り上げを積み上げることができるのか。各社がどのようなコメントを出すのか注目です。
3つ目は排ガス規制による罰金です。これは通期見通しの中で盛り込まれるかは分かりませんが、2021年以降の経営を考える上で避けては通れない項目です。欧州や中国では環境規制が厳しくなり、一定の燃費基準を達成できなければ罰金が課せられます。排ガス基準未達成の罰金は非常に高額で、例えばマツダの車種構成では罰金は1000億円超になるとの見込みもあります。
一方で電動車の販売が多い自動車メーカーであれば、排出権(クレジット)を販売し、利益を得ることができます。テスラはクレジットで4半期(3カ月)ごとに4億ドル(約435億円)前後の利益を上げており、収益改善の主要因にもなっています。通期見通しの中でこの排ガス基準未達成の罰金問題に言及されるかは不明ですが、今後業績に与える影響は多大であり、各社がどのように取り組んでいくのか注目しておきましょう。
一見難しく見える業績の分析ですが、各社最近の資料はとても分かりやすく、決算会見の内容も非常に興味深いものになっています。自動車メーカーの基本は現地現物。まとめ記事を見るだけでなく、自分で1次情報を確認することで理解がより深まるはずです。みなさんも注目ポイントを参考に自分の目で今回の決算を確かめてみませんか? 新しい発見があるはずです。
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