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2020年度の業績発表がスタート、自動車メーカーの決算のみどころはいまさら聞けない自動車業界用語(13)(1/2 ページ)

今回は自動車メーカーの決算の注目ポイントについて説明します。決算の数字を把握しておくことは、自動車業界で働く上で非常に重要です。

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ご安全に! 自動車部品メーカーで働くカッパッパです。
今回は自動車メーカーの決算の注目ポイントについて説明します。決算の数字を把握しておくことは、自動車業界で働く上で非常に重要です。


→連載「いまさら聞けない自動車業界用語」バックナンバー

 決算は企業の成績表であり、どんなに良いクルマを作っていたとしても、利益を上げることができなければ、企業として継続的に事業を行うことはできません。「決算の内容なんて、まとめ記事を見れば十分じゃないか」と思われる方もいるでしょう。しかし、1次情報を確認し、まとめ記事には出ない細かいポイントをみることで各自動車メーカーの強みや戦略を知ることができます。

 GW明けから発表されていく、各社決算。今回の記事を参考に皆さんも自分の目で各メーカーの決算をチェックしてみませんか?

まずはここから「営業利益」

 最初に注目しておくべき事は本業のもうけ=自動車を売ってどれだけもうけられたのかを表す営業利益と営業利益率です。皆さんは自動車を含め製造業の営業利益率がどれぐらいなのかを知っていますか。10%、20%……それほど高くありません。製造業はモノを生産するにあたり多額の設備投資が必要になるため、金融やITなどの第3次産業と比べると営業利益率は低くなります。

 日本の自動車メーカーの中で収益性に優れるトヨタ自動車でも営業利益率は7.7%(2020年4〜12月期)となっており、ホンダは四輪事業の営業利益率が0.8%(2020年4〜12月期)、日産自動車に関しては営業赤字(2020年4〜12月期)です。本業である自動車の生産や販売でどれくらいもうけられているのかは企業の力を表す1番大きな指標であり、今後の経営戦略を決める上で欠かすことのできない数字です。まずは営業利益、前年や他社の実績と比べどう変化しているのかをチェックしましょう。


ホンダの2020年4〜12月期の事業部ごとの収益。二輪と金融サービスの営業利益率が圧倒的に高いことが分かる。四輪はコロナ禍前の2019年度で見ても営業利益率は低い(クリックして拡大) 出典:ホンダ

メーカーのブランド力が分かる? 「販売奨励金(インセンティブ)」

 次に注目したいのは「販売費及び一般管理費」に含まれる販売奨励金(インセンティブ)です。ディーラーで新車を買った人なら、見積もりを出した後に値引きを提案された経験があるでしょう。その値引きの原資となるのが自動車メーカーからディーラーへ支給される販売奨励金です。

 販売奨励金を多く出せば価格が下がり、販売台数が伸びやすくなりますが、1台当たりの利益は減ってしまいます。いわば「もろ刃の剣」。1番望ましいのは販売奨励金がなくてもクルマが売れるだけのブランド力を持っていることです。例えば、トヨタのレクサスブランドでは一切値引きはないといわれています。またテスラの場合はメーカー直販で希望小売価格ではなく定価が掲示されています。自社のブランド力を上げれば販売奨励金なし=値引きなしで高い収益性を保ったままクルマを販売することができるのです。決算ではこの販売奨励金について資料の中で言及されることも多く、ぜひ注目してみましょう。

負担が増える「研究開発費」、協力も加速

 今、自動車メーカーにとって一番悩ましいのは「研究開発費」です。100年に1度ともいわれる「CASE」(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)に代表される技術革新が自動車業界で進んでいます。多分野において開発を進めていく必要があり、各社の研究開発費は年々増加。総務省がまとめた「売上高研究開発費比率」の調査によると、自動車などを製造する「輸送用機械器具製造業」は2009〜2018年度の10年間で全産業の平均よりも売上高研究開発費比率が伸びています。鉄鋼業や医薬品製造業、ゴム製品製造業など10年間で売上高研究開発費比率が減少した業界もある中で、自動車業界は研究開発費の割合が大きくなっています。

 研究開発費で確認しておきたいのは売り上げに占める割合と、前年までの実績との比較です。例えばホンダの研究開発費は2020年度に8000億円となる見通しです。2020年度通期の売上高の見込みは12兆9500億円なので、売上高研究開発費比率は6.1%となります。2019年度は研究開発費が8214億円、売上高研究開発費比率は5.5%です(売上高は14兆9310億円)。コロナ禍においても、研究開発への投資を絞りませんでした。さらにホンダは、今後6年間で売上高の増減に関係なく、総額5兆円を研究開発費に投資する方針です。2019年度よりもやや多い水準をキープします。

 目先の負担を考えれば研究開発費は減らしたいが、ただ減らせば将来的な競争力を失う……というジレンマもあり、各社は少しでも効率化するために連携も進めています。コロナ禍で経営環境が厳しくなる中で前年と比べて増えているのか減っているのか、その額がどれほどなのか。決算資料では、研究開発費がどの分野に注ぎ込まれているのか説明されることも多くなっています。自動車メーカー各社がどのような戦略をとっているのか確かめることができる研究開発費、要チェックです。

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