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コロナ禍でも圧倒的に強いトヨタ、「下請けたたき」は本当かいまさら聞けない自動車業界用語(7)(1/4 ページ)

今回は業界用語ではなく番外編です。世間で語られる「トヨタの下請けたたき」。果たして実際は? 自動車業界で働く部品メーカーの中の人の視点で語ります。

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自動車部品メーカーで働くカッパッパです。
今回は業界用語ではなく番外編です。世間で語られる「トヨタの下請けたたき」。果たして実際は?
自動車業界で働く“部品メーカーの中の人”の視点で語ります。


→連載「いまさら聞けない自動車業界用語」バックナンバー

2020年上期決算、圧倒的強さを見せるトヨタ

 自動車メーカー各社の2020年上期決算が出始めました。コロナ禍による世界各地での都市封鎖や、長期間にわたる工場操業への影響で、リーマンショックや東日本大震災とも異なる、それ以上の厳しい状況となっています。

 決算をみると自動車メーカーごとに明暗が分かれています。現在出ている中で非常に厳しかったのは三菱自動車です。2020年の上期連結決算では2098億円の最終赤字。通期では3600億円の最終赤字を見込みます。パジェロ製造の閉鎖や人員削減も発表されており、経営環境は苦しくなっています。マツダも同様に、2020年上期の連結決算は930億円の最終赤字となりました。日産自動車はこれから発表となりますが、販売台数を見る限り、三菱自動車と同様に厳しい決算となるでしょう。

 一方、他の自動車メーカーはコロナ禍からV字回復を見せています。SUBARUは上期で営業利益が306億円の黒字、通期見通しは営業利益を上方修正して300億円上ブレし、1100億円へ。スズキは上期の営業利益が749億円で、通期見通しは1600億円の営業黒字です。ホンダも通期見通しで営業利益を2000億円から4200億円に上方修正しました。

 いち早く業績を回復し、利益を上げたのがトヨタ自動車でした。上期の営業利益は5199億円でしたが、2020年5月の段階で通期見通しとして発表した営業利益が5000億円でした。当初の営業利益の見通しを上期のみで達成したということです。通期見通しは営業利益が1兆3000億円です。トヨタ・レクサスブランドでの販売台数も通期では830万台から860万台に大幅に上方修正しました。他の自動車メーカーと比較しても頭1つ飛び抜けています。

自動車メーカー各社の上期決算
2020年4〜9月期 通期予想
売上高 営業損益 当期損益 売上高 営業損益 当期損益
トヨタ 113,752 5,199 6,293 260,000 13,000 14,200
△ 25.9 △ 62.8 △ 45.3 △ 12.9 △ 45.8 △ 30.3
ホンダ 57,751 1,692 1,600 130,500 4,200 3,900
△ 25.2 △ 64.2 △ 56.6 △ 12.6 △ 33.7 △ 14.4
スズキ 12,702 749 543 30,000 1,600 1,100
△ 27.6 △ 36.8 △ 31.5 △ 14.0 △ 25.6 △ 18.0
スバル 12,183 306 237 29,500 1,100 800
△ 24.1 △ 67.7 △ 65.3 △ 11.8 △ 47.7 △ 47.6
マツダ 11,157 -528 -930 28,500 -400 -900
△ 34.6 - - △ 16.9 - -
三菱自 5,748 -826 -2,098 14,800 -1,400 -3,600
△ 49.0 - - △ 34.8 - -
日産 2020年11月12日発表予定 78,000 -4,700 -6,700
- - - △ 21.0 - -
金額の単位は億円。金額の下段は前年同期比の増減で単位は%

 トヨタが利益を上げる一方で、トヨタ系サプライヤーは非常に経営状況が苦しくなっています。デンソーは品質問題でのリコールもあり、上期711億円の最終赤字です。アイシン精機も上期は194億円の最終赤字、ジェイテクトも上期で240億円の最終赤字となるなど、利益は上がっていません。トヨタ系の中堅サプライヤーの中には通期の業績見通しを上方修正した会社もありますが、それでも当期純利益が前期比で大幅減となりながらも、何とか黒字を確保するという状況です。

 トヨタが黒字となりながら、サプライヤーは赤字。以前から、「トヨタはサプライヤーの部品を買いたたくことで利益を上げている」という批判がありました。サプライヤーから部品を安く購入することで、トヨタだけが大きな利益を上げる。「トヨタの下請けたたき」は本当なのでしょうか。

トヨタが発表した2020年4〜9月期の営業利益の増減要因(左)。当初の見通しと比べた通期での営業利益の増減要因(右)(クリックして拡大) 出典:トヨタ自動車

原価低減は「部品の値下げ」だけではない

 2020年上期決算におけるトヨタの黒字の大きな要因は、「原価改善」と「諸経費の低減」でした。諸経費のうち、一般的な経費については出張旅費や交際費、事務用品に至るまでどこの会社でも発生するコストを1300億円削りました。モノづくりに直接関係する原価改善は、2020年上期単体で500億円分の増益要因となっています。

 原価低減は、サプライヤーからの購入部品の値段を下げることだけではありません。トヨタ内での製造コストの削減も大きな要素です。「乾いた雑巾を絞る」とよばれるカイゼンなど、トヨタのコストへの意識の高さは世界でも良く知られています。例えば、車体の仕様情報を記入した紙をライン内で飛ばないように止めるためのテープがあります。クルマの部品の間に紙を挟む方法にすることでテープの使用をなくし、1台当たり0.4円削減しています。

 他にも、塗装工程に使うコンパウンド剤は最後の一滴まで絞りだして使い切ることで、1台0.02円の削減となります。一見簡単で当然に思える小さなカイゼンですが、1円にも満たないこうした積み重ねを徹底することにより、トヨタ内の製造原価は作り込まれています。利益を生むために、まずは自社内に厳しい目を向け、カイゼンを進めていることは知っておいていただきたいと思います。


過去の記事から再掲。利益と原価の関係とは?(クリックして拡大)
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