欧州をけん引するポストコロナのデータ駆動型健康戦略「EU4Healthプログラム」:海外医療技術トレンド(70)(4/4 ページ)
本連載第57回で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にデジタルで挑む欧州を取り上げたが、今回はポストコロナ時代に向けた欧州連合(EU)の新戦略について紹介する。
越境データ連携に不可欠なノードとフェデレーションの役割
本連載第67回で、米国バイデン政権の医療機器のイノベーション支援策を取り上げたが、EUの場合、国単位で技術機能やビジネスモデルをスケーリングするには、限界がある。EHDSにおいても、各国・地域の機微な保健データをやりとりするためのセキュアな共通基盤を構築し、継続的に運用していくかが大きな課題となる。
EUでは、フィンランド・イノベーション基金(SITRA)が調整役となり、2021年2月1日より、2年間のプロジェクトとして、「欧州保健データスペースに向けた共同行動(TEHDaS)」(関連情報)がスタートした。図4は、TEHDaSによるEHDSインフラストラクチャ向け実証試験の全体イメージを示したものである。
図4 欧州保健データスペース(EHDS)インフラストラクチャ向け実証実験の全体イメージ(クリックで拡大) 出典:European Commission「Towards a common European Health Data Space」(2021年3月24日)
これによると、現在、保健データの2次利用に関わる当局(例:フランス、フィンランド、デンマーク)、データ共有インフラストラクチャ、規制・公衆衛生当局(例:欧州医薬品庁(EMA)、欧州疾病予防管理センター(ECDC))などのマルチステークホルダー環境下で、企画・設計を行うフェーズにあり、2021年第4四半期をめどに導入を開始するとしている。
ここでは、EHDSのノード側における提供サービスとして、以下のようなものが例示されている。
- メッセージ交換
- バックエンド統合
- メタデータ公開
- アクセス管理
他方、EHDSのフェデレーション側による提供サービスとしては、以下のようなものが例示されている。
- 動的なサービスロケーション
- データセットのルックアップ機能
- 信頼性の確立
- サービスデスク
- コンプライアンスチェック
本連載第61回で、欧州のCOVID-19接触追跡アプリケーションの域内越境利用を実現するフェデレーションゲートウェイ・サービスを取り上げたが、各国のノード側と、バックエンドをつなぐフェデレーションゲートウェイ側の双方に要求される強靭性(Resilience)と持続可能性(Sustainability)をどう維持していくかは、EHDSにおいても共通の課題となる。
ノードの先のエッジ側には、リアルワールドデータ(RWD)/リアルワールドエビデンス(RWE)のソースとなる医療機器やデジタルヘルス機器、健康医療情報システムなどが存在しており、データのガバナンスや品質管理において重要な役割を果たしている。同時に、医療データの2次利用による事業拡大を検討する機器関連企業にとっては、ノードとフェデレーションのデータ連携を起点に、付加価値を創出できるかが鍵を握っている。
現時点で、EHDS/TEHDaSの参画主体をみると、医薬品寄りの傾向が見受けられるが、2021年5月のEU医療機器規則適用開始を契機に、医療機器/デジタルヘルス関連組織からの参画が期待される。
筆者プロフィール
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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