欧州をけん引するポストコロナのデータ駆動型健康戦略「EU4Healthプログラム」:海外医療技術トレンド(70)(3/4 ページ)
本連載第57回で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にデジタルで挑む欧州を取り上げたが、今回はポストコロナ時代に向けた欧州連合(EU)の新戦略について紹介する。
保健データ2次利用の越境連携を主導するEHDS構想
デジタル技術を活用した強靭性や資源効率の向上による健康システムの強化に関連して、2020年下半期のEU議長国であるドイツおよび欧州委員会が主導し、2020年11月11日、「欧州保健データスペース(EHDS)」(関連情報)構想を提唱した。その後欧州委員会は、2020年12月23日、EHDSのロードマップに関する初期インパクト評価を公表しており、2021年第2四半期に公の意見募集を実施した上で、同第4四半期をめどに最終案を採択する予定である(関連情報)。
図2は、EHDSの全体像を示したものである。
図2 欧州保健データスペース(EHDS)の全体イメージ(クリックで拡大) 出典:European Commission「Towards a common European Health Data Space」(2021年3月24日)
業種横断的なフレームワークとして、2020年11月25日に欧州委員会が提案した「欧州データガバナンス法」(関連情報)が設定されている。同法案は、経済社会におけるデータの潜在力を活用するために、以下の4つの軸を掲げている。
- 公的セクターの主体が保有する機微データの再利用
- 単一市場:データブローカーにおける新たなデータ仲介機関向けのフレームワーク
- データ利他主義向けのフレームワーク
- 調整と相互運用性:欧州データイノベーション会議(専門家グループ)
その上で、保健、産業/製造、農業、金融、モビリティ、グリーンディール、エネルギー、公的機関、スキルといった業種・業界別データスペースが展開される形態になる。ここで挙げられた業種・業界は、スマートシティーの機能分類とほぼ一致していることが分かる。欧州データガバナンス法は、4P(Public、Private、People、Partnership)モデルを採用したEU域内のスマートシティー(例:都市インフラを活用した健康・ウェルビーイング分野の健康増進プログラム)同士が、多国間/多地域間データ連携を実現するためのフレームワークとして活用できる。
そしてEHDSは、保健データ+デジタルヘルス+保健AIをベースに、以下のようなものから構成されるとしている。
- 保健データエクスチェンジ(ガバナンス、プライバシー、品質、ポータビリティ、データへのアクセス、インフラストラクチャ、相互運用性)
- デジタルヘルスサービス・製品向けの単一市場
- 保健AIなど、データ集約的なデジタルヘルスサービス・製品の開発および展開に適した明確なルール
またEHDSでは、保健データの1次利用と2次利用について、図3のように整理している。
図3 保健データの1次利用と2次利用(クリックで拡大) 出典:European Commission「Towards a common European Health Data Space」(2021年3月24日)
縦軸に、保健データの1次利用(よりよいヘルスケア)および2次利用(よりよい政策策定、よりよい研究とイノベーション)を設定し、横軸に、法律/ガバナンス、データ品質、インフラストラクチャ、キャパシティービルディングを設定して、マッピングしている。
なお、EHDSでは、一般データ保護規則(GDPR)順守の観点から、以下のような点について検証を実施している。
- 保健セクターにおける国レベルでのGDPR導入のマッピング
- 国レベルの保健データのルールとガバナンス構造
- 研究およびイノベーションにおける保健データ利用
- 政策の策定および規制上で目的とする保健データ利用、規制当局の保健データへのアクセス
- 市民の保健データへのアクセスとデータポータビリティ
- 忘れ去られる権利など、患者の権利
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