量産試作の「組み立て」と「検証」は慎重に!! 確認すべき事項とその注意点:アイデアを「製品化」する方法、ズバリ教えます!(6)(3/3 ページ)
自分のアイデアを具現化し、それを製品として世に送り出すために必要なことは何か。素晴らしいアイデアや技術力だけではなし得ない、「製品化」を実現するための知識やスキル、視点について詳しく解説する連載。第6回のテーマは量産試作における「組み立て」と「検証」だ。それぞれで確認すべき事項と注意点について、筆者の経験を交えながら説明する。
落下試験を5回もやり直した
筆者がソニーに入社して4年目のころ、9インチのモニターを設計していた。テレビ撮影の野外ロケで使用するモニターだ。このモニターはハンディー製品であったため、“高い位置から落下させても問題が起きないこと”という社内規格があった。まだブラウン管の時代の製品であり、ガラス製のブラウン管は結構な重量であった。
いざ落下試験を行ってみると、ガラスのネック部分が割れてしまった。だが、設計的にはネックがぶつかる所はどこにもない。また、不思議なことに、試験の2回に1回くらいはネックが割れないのだ。結局、この原因が分かるまでに、落下試験を繰り返しブラウン管を5個も破損させることになってしまった。とても苦い経験である。
原因は、ハーネスであった。製品を落下させると、重たいブラウン管のネックは製品内部で大きく動く。ネックの先端には基板が付いており、その基板にはコネクターが刺さり、そこからハーネスが出ている。ネックが動くと空中にあるハーネスが別部品に接触してハーネスがピンと張り、基板を介してネックにストレスがかかって割れてしまう……ということだった。
筆者は、落下によってネックが10mm程度動くとは知らず、またハーネスがガラスのネックを割ってしまうなどということは考えもしなかった。これは筆者の経験不足であった。しかし、ここで大切なことは、試作品であるハーネスの空中での位置を、試作組み立てのときに取り決めた位置にしていなかったことだ。落下試験にハーネスの位置は関係ないだろうと思い込み、いいかげんな位置のままにしていたのだ。前述した、試作品の準備を入念にしておくことを怠ったために発生した出来事だ。
原因がハーネスにあると分かるまでに、同じ試験を何度も繰り返す羽目になり、ブラウン管を5個も割ってしまったことは、試作コストと時間のムダ遣いに他ならない。ハーネスを試作組み立てのときに取り決めた位置にしておけば、このような事態を招くことはなかったのだ。
(次回へ続く)
筆者プロフィール
オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)
上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。
◆ロジカル・エンジニアリング Webサイト ⇒ https://roji.global/
◆著書
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 2画面ノートPC「ZenBook Pro Duo」を徹底分解して見えたASUS流の品質設計
ASUSのデュアルディスプレイ搭載ノートPC「ZenBook Pro Duo」。今回、ASUSの協力の下、同製品を分解する機会を得た。製品レビューは他媒体にお任せし、本稿では設計上の特徴なポイントを中心にお届けする。 - ポメラ DM30を分解――メカ・電気・デザインのコラボに優れた製品
2018年6月8日発売のキングジム製の新製品『デジタルメモ「ポメラ」DM30』を分解する。 - 中国人通訳に通じない「しょっちゅう」「ハードルが高い」「反り」
私が中国に駐在中、中国メーカーの日本語通訳に必ずといって良いほど質問することがありました。それは「『しょっちゅう』の意味を知っていますか?」というものです。 - 「ひとりメーカー」Bsizeが生き残ったシンプルな理由
2010年代に起きた「メイカームーブメント」を振り返るとともに、2020年代に始まる「ポスト・メイカームーブメント」の鍵となる企業や技術、コミュニティーを紹介する連載。ハードウェアの量産や経営に苦労するスタートアップがいる中、モノを作り続け、成長につなげることができているのはなぜか? 日本のメイカームーブメントの先駆けとして知られ、当時「ひとりメーカー」としてメディアにも大きく取り上げられた、Bsizeの八木啓太氏にお話を伺った。 - 余った外貨を電子マネーに交換できる「ポケットチェンジ」が乗り越えたモノづくりの壁
海外旅行で余った外貨を自国で使える電子マネーなどに交換できるサービス「ポケットチェンジ」。モノづくりの経験がなかったベンチャー企業がどうやってポケットチェンジを実現させたのか? 「ストラタシス 3Dプリンティングフォーラム 2019」で披露された講演の模様をお届けする。 - 自分で作ったモノを人に売って問題ないのか?
人気過去連載や特集記事を1冊に再編集して無料ダウンロード提供する「エンジニア電子ブックレット」。今回は過去の人気記事から「作ったモノを売るときに知っておきたい『法律』の話 」をお届けします。