本田宗一郎氏の思いとデジタル技術を融合へ、ホンダの生産技術:日本モノづくりワールド(2/2 ページ)
日本ものづくりワールド(2021年2月3〜5日、千葉県・幕張メッセ)の特別講演として、本田技研工業 執行職 生産技術統括部統括部長の神阪知己氏が「Hondaのものづくり〜生産技術への変わらぬ想いと新たな挑戦〜」をテーマに講演を行った。
四輪車だけでなく二輪車や航空機にも生かす生産技術
生産技術は四輪車だけでなく、二輪車や航空機にも生かされている。二輪車ではスクーターのフレーム生産で生産技術部門により新たなモノづくり方法を確立し生産性を改善したという。従来製造方法では熱ゆがみなどの欠点があったのに対し、プレスで成型し、レーザ溶接することで製造する方法を取ることで解決を図った。これにより高速化と高精度を両立させたという。また、ジェットエンジンでは重要な部品である燃焼器の製造において、レーザで穴を開ける場合、形状に歪が生じるなど歩留まりが悪かったが、冷やしながらレーザを照射するという方法で、歩留まり向上に成功した。
「創業者の思いを生産技術の思想として取り入れてきた。今後についても、例えば『EVではこのままのボディーの製造方法でよいか』など今起きる問題に対しさまざまな議論をしながら進めている。重要なのは過去取り組んできたものを否定せずに、その上でソフトウェアやシステムを変革するデジタル技術を活用することである」と神阪氏は今後の取り組みについて語る。
50年の知見とデジタル技術を融合
その1つとして、生産技術へのIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)技術の採用などを推進している。例えば、人の作業の状況や動きなど、これまで見えなかった部分を、カメラを使って可視化する技術などを使い、把握できるようにした。さらに、工場間をネットワークで結ぶことで、稼働状況が一目で分かるなどの改善を行っている。
塗装用シミュレーションについても、市販シミュレーションソフトではなく、独自のメカニズム解析を加え、より実用的なソフトウェアを活用している。塗装は「塗料をいかに効率よくボディーに塗装できるか」という塗着効率がポイントとなる。「80〜90%を目指していたが、難しい状況にあった。これを可視化の技術と、それを理論化し実装することにより、より現実に近いシミュレーションを行っている」(神阪氏)。この作業の結果を最適化することにより、塗着効率が11.7%向上したという。また、シミュレーションとの誤差も約1.7%に抑えることができた。「このように生産技術での今までの試験と、理論、シミュレーションと、デジタル技術を活用したさまざまな結果をいかにすり合わせていくかが重要である。ただ、これらの全てのベースとなるのがこれまで培ってきた知見になる」と神阪氏は強調する。
クルマづくりのデジタル技術採用は不可欠であり、その目指す姿は、デジタルを利用することで基本的に試作の台数を削減して開発費のコストダウンを図ることにある。また、試作のデジタルデータを使って生産準備を自動化し、量産化することで導入期間を短縮することも目的だ。デジタルの世界とフィジカルの世界を付き合わせ、デジタルツインなどの技術を用いることで、これまでの人のカンコツに頼ったボディーづくりをより効率よい技術の構築を図る。
この他、多様化を目指したオープンイノベーションも推進。数年前から米国・シリコンバレー、ドイツ、イスラエルなどのベンチャー企業との協業を進めているという。
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