なぜ今デライトデザインなのか? ものづくりの歴史も振り返りながら考える:デライトデザイン入門(1)(2/2 ページ)
「デライトデザイン」について解説する連載。第1回では「なぜ今デライトデザインなのか?」について、ものづくりの変遷を通して考え、これに関する問題提起と、その解決策として“価値づくり”なるものを提案する。この価値を生み出す考え方、手法こそがデライトデザインなのである。
価値を生み出す考え方、手法がデライトデザイン
以上述べた「価値」を生み出す“価値づくり”のための考え方、手法がデライトデザインであり、デライトデザインでは顧客に“デライト(感動、ワクワクなど)”を与えることが目標となる。既に述べた「カッコいい」「最新の技術/機能」「高級感」はデライトの代表的なものである。ここではデライトデザインを以下のように定義する。
“精神的な豊かさ”を具現化するものづくり、心を豊かにするものづくりをデライトデザインと呼ぶ。デライトデザインは従来のものづくりに、価値づくりを融合した考え方、手法である。一人の天才により生み出されるのではなく、技術者集団から価値ある製品(商品)を創出する仕組みの構築を目指す。
すなわち、デライトデザインでは従来のものづくりを完全に否定するのではなく、ある程度踏襲しつつ、新たな価値を創出する仕組みを、考え方や手法とともに提供、融合することを目指す。デライトデザインによる価値づくりは、多様性が求められる時代だからこそ、必要な考え方である。
“製品と商品”の関係
今まで、「製品(商品)」という表現を使ってきた。ものづくりに関わっている技術者は「製品」という言葉を使うが、実際に顧客が手にするのは「商品」である。図4に製品と商品の関係を示す。原材料に人の手を加えて製品にする。このプロセスが、企画・設計・生産である。これに、販促・サービス・保守といった付加価値を付けて初めて商品となる。顧客は製品としてではなく商品としてものを捉え、対価を支払う。従って、デライトデザインを考えるに当たっては、製品と商品という両方の観点から考える必要がある。すなわち、企画・設計の段階から、生産・販促・サービス・保守のことを考え、コストを上げずに価値を最大化することが重要となる。この考え方自体は、1990年代に米国で提唱、実践された「DfX(Design for X)」に通じるところがある(参考文献[3])。
次回は、デライトデザインとは? について、デライトデザインの位置付け、関連する考え方について説明する。 (次回へ続く)
参考文献:
[3]David A Gatenby and George Foo, Design for X(DfX):Key to Competitive Profitable Markets, AT&T Technical Journal, Vol.69, No.3, May/June(1990)
筆者プロフィール:
大富浩一/山崎美稀/福江高志/井上全人(https://1dcae.jp/profile/)
日本機械学会 設計研究会
本研究会では、“ものづくりをもっと良いものへ”を目指して、種々の活動を行っている。デライトデザインもその一つである。
- 研究会HP:https://1dcae.jp/
- 代表者アドレス:ohtomi@1dcae.jp
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