GRスープラやNSX、GT-Rが競うスーパーGT、共通化と競争領域を使い分け:モータースポーツ超入門(5)(3/3 ページ)
最高峰のGTレースにして、世界でも類を見ないコンペティティブな環境が整うレースカテゴリーが日本に存在する。それがスーパーGTだ。上位クラスのGT500ではトヨタ自動車、ホンダ、日産自動車が三つどもえの戦いを展開し、下位のGT300ではポルシェやランボルギーニ、フェラーリといった世界の名だたるスーパースポーツカーが参戦する。
GT300クラスの3つの車両規格
GT300クラスには、「FIA GT3」「JAF-GT(GT300)」「マザーシャシー(GT300MC)」という3種類の車両規格が存在している。
FIA GT3は、自動車メーカーがFIAの規格にのっとって開発した市販車ベースのレース専用車。メーカーにとっては車両を世界中に販売できるビジネスとしての側面もある。2021年シーズンには「ポルシェ911 GT3 R」「メルセデスAMG GT3」「アウディR8 LMS」「BMW M6 GT3」「ランボルギーニ ウラカン GT3」「アストンマーチン ヴァンテージGT3」の海外勢の加え、「レクサスRC F GT3」「GT-Rニスモ GT3」「ホンダNSX GT3」が参戦する予定だ。
JAF-GTは、JAFまたはFIAから認可を受けた市販車がベースとなる。市販スポーツカーなどを大幅に改造したマシンで、今シーズンは「トヨタGRスープラ」「トヨタGRスポーツ プリウスPHV」「スバルBRZ GT300」が出場する。JAF-GTは市販車の基本特性で左右される傾向にあり、レーシングカーとしての素性を持つ量産車が減少していることから採用台数が増えずに厳しい状況に置かれている。地球環境問題に対する排ガス規制や低燃費化の流れの中で、レース用として使えるエンジンが乏しくなっていることも背景にある。
こうした環境下で誕生したのがマザーシャシーだ。FIA GT3車両の増加と、JAF-GT車両の減少を背景に2015年に生み出された。コンストラクターの童夢が製作したカーボン製モノコックと、GTAが認定する排気量4.5lのV8自然吸気エンジンを使用するが、サスペンションなどは独自に開発することができるなど、開発コストを抑えながら参戦することを可能にしている。2021年は「トヨタ86MC」「ロータスエヴォーラMC」が参戦。2019年までは「トヨタマークX」も走っていた。
なお、JAF-GTとマザーシャシーについては、2021年シーズンから車両規定が「JAF国内競技車両規則」ではなく、GTAが策定する「2021年GT300車両規定」に従った車両となる。これに伴い、各車両規定の名称もGT300、GT300MCに変更される。
国内屈指の観客動員数を誇るスーパーGTだが、もちろん課題がないわけではない。DTMとの共通技術規則であるクラス1規則の行方は、日本国内でガラパゴス化する可能性も否定できない。自動車業界が直面する電動化対応をどう進めていくのかにも注目が集まる。クラス1規則からGT3規則に移行するDTMだが、将来的に電気駆動の「DTMエレクトリック」を立ち上げる構想も発表している。世界を見回せば水素を燃料に使ったモータースポーツも出始めており、スーパーGTもまた100年の大変革期の中に置かれているのだ。
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