燃費への貢献だけでなく違和感の解消も不可欠な「回生ブレーキ」:ブレーキの歴史と未来(2)(1/3 ページ)
このコラムでは、自動車に乗っている人だけでなく、道路の近くにいる全ての人やモノを守るために欠かせないブレーキについて、自動車関係の企業で働く現役エンジニアの視点で解説します。今回は回生ブレーキや回生協調ブレーキなど、環境対応車向けのブレーキシステムについて紹介します。
このコラムでは、自動車に乗っている人だけでなく、道路の近くにいる全ての人やモノを守るために欠かせないブレーキについて、自動車関係の企業で働く現役エンジニアの視点で解説します。前回の記事では、ブレーキが発展してきた歴史について紹介しました。今回は回生ブレーキや回生協調ブレーキなど、環境対応車向けのブレーキシステムについて紹介します。
環境意識の高まりと法改正
環境保護に対する世界的な取り組みとしては、通称「パリ協定」と呼ばれる国連気候変動枠組条約締結国会議(COP21)や、持続可能な開発目標(SDGs)の13番目である気候変動に関する国際目標などがあります。環境や気候変動に対する意識は世界中で高まり続けており、COP21やSDGsに基づいた目標が世界各国で定められ、制度の構築や法改正が行われています。
例えば、2020年9月に米国カリフォルニア州知事のギャビン・ニューサム氏が、2035年までに州内においてガソリンエンジン車両の新車販売を禁止するという知事令を発しました。欧州ではノルウェーが2025年までとかなり早い時期にZEV(ゼロエミッションビークル)の販売比率を100%にする他、2030年までに多くの国がガソリンエンジン車やディーゼルエンジン車の販売を禁止したり市街地への乗り入れを規制したりする計画です。さらに、日本でも東京都が2030年までに脱ガソリンエンジン車を達成すると宣言した他、日本政府も2030年代にガソリンエンジンのみで走るクルマを廃止する方針を示しました。
ガソリンエンジンを搭載した車両の販売禁止が、カリフォルニア州をはじめ世界各国で採用された場合、販売できるラインアップが従来のままでは大きな制限を受け、経営にも影響を与えます。こうした環境を受けて、よりCO2排出量の少ない電動車の開発が激化しています。排出削減に貢献するのはモーターやバッテリーだけではありません。ブレーキも寄与すべく、技術開発が進んでいます。
回生ブレーキと回生協調ブレーキ
開発が進められているのは、走行中の車両がもつ運動エネルギーを回収し、電気エネルギーとして活用することで、燃料の使用量を減らせる回生ブレーキです。ここでは、回生ブレーキと回生協調ブレーキについて、それぞれの特徴や違いを解説します。
回生ブレーキは、走行中の車両がもつ運動エネルギーによってオルタネーターや電動パワートレインのモーターの軸を回転させることで、電気エネルギーとして回収します。運動エネルギーを電気エネルギーに変換することで車両が減速します。回生ブレーキではない従来のブレーキと比較すると、ブレーキキャリパーやブレーキパッドなどの部品は変わらず、ドライバーがブレーキペダルを操作することによって発生する制動力も従来通り発生しています。
回生協調ブレーキは、摩擦ブレーキと回生ブレーキによる制動力を協調させてドライバーが求めている減速を実現します。回生ブレーキを使用している間は、電気エネルギーを効率的に回収するためにも摩擦ブレーキを発生させない方が理想的であり、ドライバーのブレーキペダル操作によって必ず摩擦ブレーキが発生する機構は望ましくありません。ドライバーの操作と摩擦ブレーキを分離する、ブレーキバイワイヤなどの機構が必要です。一般的な回生協調ブレーキでは、まず回生ブレーキを最大限活用し、ドライバーの要求に対して回生ブレーキだけでは不足する分を、摩擦ブレーキで補います。
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