目指すは「義足界のテスラ」、元ソニー技術者が挑戦するロボット義足開発:モノづくりスタートアップ開発物語(8)(3/3 ページ)
モノづくり施設「DMM.make AKIBA」を活用したモノづくりスタートアップの開発秘話をお送りする本連載。第8回は、ロボティクス技術で義足をより使いやすいものに変革しようと研究開発を行うBionicMを紹介する。自身も義足を使用する同社CEOの孫小軍氏は、階段の昇降も容易く、かつ、服で隠す必要のない“カッコいい”デザインの義足を開発したいと意気込む。
人と機械が融合するデザインを目指す
――どのように改善したのですか。
孫氏 従来は義足を「位置制御」の方法で動かしていました。位置制御では人間の動きをある程度は追従できても、あらゆる環境下での人の動きに対応できるわけではありません。このままでは汎用性の低い製品になってしまいます。「ロボット義足を使いやすい製品として世に出す」と心に決めていたので、義足の制御方法を位置制御ではないものに変えようと考えました。結果、「力制御」に切り替えたことで、きめ細かい義足の制御が可能になりました。
――ハードウェア面の変更点はありますか。
孫氏 外枠をアルミニウム製からカーボン製にしました。安価な上、軽量化できました。さらに複雑な曲面加工ができるという大きなメリットもありました。
これまで義足は「ズボンの中に隠すべきもの」として扱われてきました。一方で私は、外に露出して人に見せたくなる、つまりカッコいい義足を作りたい。人間と機械が融合するようなデザインを目指したいと考えています。
データ分析で「行動予測」し、カスタマイズした義足を届ける
――製品化に向けて、どんな取り組みをしていますか。
孫氏 義足はハードウェア、ソフトウェアの開発自体も重要ですが、その中で義肢装具士や理学療法士といった、ロボットエンジニアとは別分野の視点を持つ必要があります。そうした多くの仲間の意見を聞いて、開発を続けています。
現在は、ロボット義足を使ってもらってデータを集め、行動予測を精緻にする試みを続けています。階段を上るとき、人間の筋肉は脳からの指令で、階段に備える動きをします。ところが、義足そのものには目が付いていませんから、備えることができない。
代わりに、私たちの義足は複数のセンサーを搭載して、ユーザーの体重の掛かり具合や関節の角度、傾き、加速などをセンシングし、ユーザーの“意図”を感知しようとしています。今後、こうした無意識的で微細な動きの兆候をデータ化して、それに基づいて次の行動を予測するシステムを開発していきます。
動きを制御するパラメーターは個人によって、微妙に違いがあります。そこで、ユーザーごとにパラメーターをカスタマイズしなければなりません。義足は、命にかかわるもので、誤作動してはいけないのです。今後も、安全性を最も大事にしていきたいと考えています。
――「義足界のテスラ」を目指しているそうですね。
孫氏 はい。ちなみに、社名であるBionicMの“M”は、「Man(人間)」と「Mobility(移動体)」の意味を込めています。障がい者も高齢者も自由に移動できる世の中を実現したいからです。
――新たな製品開発はどのように考えていますか。
孫氏 現在は2021年秋に販売予定の商品改良に全力を上げているので、具体的には考えていません。ただ、漠然としていますが、「履く製品」としてパワースーツのようなものが作れそうな気がしています。ロボット義足で蓄積された技術とノウハウがあれば、「自分の足で歩いて移動する」というモビリティ製品を開発できるのではないかと考えています。
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