パナソニックがインド発の新規事業、「クロスボーダー事業開発」が活動を加速:イノベーションのレシピ(2/2 ページ)
パナソニックが本社直轄のイノベーション推進部門 イノベーション戦略室の傘下に2020年10月に開設した「クロスボーダー準備室」の活動内容について説明。同室で進めている「クロスボーダー事業開発」では、パナソニックインドが手掛けた成功事例を日本国内に展開するなどして、5カ月間で21件の現場実装を行ったという。
先に売り上げが伴う形で具現化した上で事業部門に提案
2020年度下期における事業領域は「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と「コロナ」に定め、顧客の目の前の困りごとを解決しながら、事業戦略視点での事業の広げ方も模索してきた。これまでの5カ月間で21件の現場実装を行っているが、商談としては100件以上になる。「大企業内の出島組織は、事業部門と連携するための企画段階で総論賛成、各論反対のような形でうまく事業化が回らないことが起こりがちだ。クロスボーダー準備室は、先に売り上げが伴う形で顧客とビジネスを具現化した上で事業部門に提案している。また、社内の事業部門だけでなく社外のエコシステムを活用する場合もある」(中村氏)という。
会見では、クロスボーダー準備室で手掛けた3つの製品事例を紹介した。1つ目は、インドで生まれた子供の見守りようのBluetoothビーコン「Seekit」だ。国内では、サッカークラブである「水戸ホーリーホック」との連携による子供や高齢者の見守りの実証実験が2021年2月からスタートしており、同年4月から東京と他1カ所でも実証実験を始める予定だ。また、Seekitの位置データ情報から、消費者のジオロケーションデータが得られることから、これらを「くらしデータ」としてセキュアに活用するための検討にも適している。インド側でも、Seekitの機能向上に向けて屋内向け位置計測システムの開発を進めている。
2つ目もインドで開発した電子保証書の「e-CareWiz」で、国内では共創パートナーとのビジネス開発を進めている段階にある。3つ目は、米国シリコンバレーで中村氏が手掛けた“リアルいいねボタン”の「ENY feedback」である。既に現場実装と実証実験が18件進んでおり、独居高齢者の見守りサービスをはじめパナソニック社内とのコラボレーションも含まれている。また、米国向けに、AIカメラの「Vieureka」とのシステム連携や無線不要システムの提供の準備を進めており、国内ではコロナ対策型での提供を始める計画だ。
「Panasonic β」の考え方をより事業化や現場実装にシフト
中村氏は「既存のメーカーにおける新規事業創出では『シーズありきの発想は良くない』『ゼロベースでやるべき』という意見が多い。しかし、既にある技術のシーズを活用することは、組織の強みを生かすためには重要ではないだろうか。クロスボーダー事業開発では、組織のDNAと組織の強みを生かすことを主軸にしている」と強調する。
また、Seekitを用いた水戸ホーリーホックとの実証実験を例とする「地域エコシステムへの貢献」や、社内にとどまらない社外のプロフェッショナル集団と連携した「イノベーションエコシステムの中での共創モデル」、事業開発と組織開発にソフトウェア技術を活用した「新事業開発プロセスのデジタル化」、クロスボーダー準備室のメンバー11人が大手企業平均の1.5倍のエンゲージメントが得られている「予期しなかった副次作用」といった新規事業の開発と活性化に向けて得られた知見も披露した。
中村氏は、デジタル時代に対応する“もう1つのパナソニック”として2017年から米国シリコンバレーに組織された「Panasonic β」に所属していた。Panasonic βでは、従来型の組織である事業部制に代表される「タテパナ」に対して、組織や職能の壁を超えて横連携を行う「ヨコパナ」を小さな形(ミニヨコパナ)で実現し、イノベーションを量産するマザー工場に位置付けられている。「クロスボーダー事業開発は、パナソニックをイノベーティブな組織に生まれ変わらせるPanasonic βの活動とつながっている。Panasonic βの考え方を、より事業化や現場実装にシフトしたものがクロスボーダー事業開発だ。また、Panasonic βの関係者はパナソニック社内のさまざまなところにおり、それがクロスボーダー事業開発を進めるための“ヨコパナ”をアメーバのように進める基盤にもなっている」と述べている。
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