パナソニックが70%高濃度CeF成形材料を実現、樹脂使用量の削減を目指す:材料技術(2/2 ページ)
バイオマス素材として注目されるセルロースファイバー(CeF)を高濃度添加したCeF成形材料の開発に取り組むパナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部は、CeFのさらなる高濃度化を実現し、新たに「70%高流動タイプ」と「70%高剛性タイプ」の2種類のCeF成形材料を発表した。
金型や成形時の工夫で独自の風合いや質感を高めることが可能
また、セルロースファイバー55%の高濃度化に引き続き、セルロースファイバー70%でも乳白色ペレットとして成形材料を製造できる点も、他にはない大きな差別化ポイントだとする。「通常、混錬プロセスや成形プロセスで熱を与え過ぎると褐色化してきれいな白色が出せなくなる。セルロースファイバー70%でも白色がしっかりと出せる点は、非常に特徴的だといえる。ここに、古くから樹脂成形技術や金型技術に取り組んできたパナソニックの強みが生かされている」(浜辺氏)。
なお、セルロースファイバーが高濃度に添加された樹脂材料で射出成形する場合、従来の金型でも対応可能だとするが、専用の金型を用いた方がよりデザイン性が高く、強度が出せる成形品を製造できるという。「従来の樹脂とは異なり、木質繊維を多く含んだ材料になるため、流動性を担保し、特性や外見の質を高める上では金型上の工夫がどうしても必要となる」と、同社 マニュファクチャリングイノベーション本部 成形技術開発センター 先行成形技術開発部 部長の切通毅氏は説明する。
同社のセルロースファイバー成形材料を用いた成形品は、従来の樹脂と同じく後処理なしでそのまま使用したり、塗装を施したりすることが可能だ。また、セルロースファイバーの特色を生かし、木の風合いに近い、高付加価値な質感を作り出すこともできる。「専用の金型を用いるだけでなく、成形時の温度や時間といったパラメータを調整することで、白色のまま出したり、褐色化させたり、意図的に色ムラを出したりなどの風合いをコントロールできる。こうした風合いの幅を引き出せるのは、セルロースファイバー成形材料を乳白色ペレットとして製造できるからだ」と切通氏は述べる。
日用品や家電の他、車載機構部材への適用検討も進む
今回、セルロースファイバー70%の高濃度添加に成功したことで、バイオマス度を高めると同時に、従来の樹脂材料と同じように射出成形ができ、塗装処理や切削などの追加工なども行えるプラスチック代替素材としての期待が高まる。実際、引き合い件数は右肩上がりに伸びており、「既に量産品への適用実績のある日用品や家電などに加えて、『70%高剛性タイプ』の実現により、車載機構部材への適用検討が進んでいる。特に自動車業界では、硝子ファイバーなどで補強した樹脂部品が多く使用されているため、リサイクル性の観点からもその代替材料としてセルロースファイバーへの関心が高まっている。それ以外にも、服飾や飲料・食品関係など、幅広い業種/業界からの引き合いが非常に増えている状況だ」(切通氏)という。
その一方で、発展途上中の新材料という側面もあるため、従来の樹脂材料と比較して、材料コストの面ではまだ十分に優位性を発揮できているとは言い切れない。この点について、切通氏は「今後、採用ケースが増えてボリュームが出るようになれば、材料コストもこなれてくるだろう。また、セルロースファイバーの高濃度化による剛性の向上を生かし、同一部品をそのまま置き換えるのではなく、部品形状を薄肉化するなどして材料の使用量を減らし、コスト削減につなげるといった方向性も考えられる」との見解を示す。
同社は今後、セルロースファイバー85%添加というさらなる高濃度化や廃材の活用などに取り組むと同時に、使用する樹脂を石油由来のものから植物由来のものへと置き換えることで、100%天然由来のセルロースファイバー成形材料の実現を目指すとしている。
今後の展望について、浜辺氏は「樹脂材料が使われている全ての領域に、われわれの高濃度セルロースファイバー成形材料が入っていけるよう、さらに開発を進めていきたい」とし、切通氏は「現在、パナソニックでは年間数十万トンの石油由来樹脂を使用している。将来的にこれら全てをセルロースファイバーに置き換えることができれば、世界中の樹脂の置き換えも可能になるのではないか。そういった高いモチベーションで開発に取り組んでいく」と語る。
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