オリンパスが大腸内視鏡AIソフトを拡充、浸潤がんや潰瘍性大腸炎を高精度に診断:人工知能ニュース(2/2 ページ)
オリンパスは、大腸の超拡大内視鏡画像をAIで解析し医師の診断を補助するソフトウェア「EndoBRAINシリーズ」において、腫瘍や浸潤がんを高精度に判別する「EndoBRAIN-Plus」と、潰瘍性大腸炎の炎症状態を高精度に評価する「EndoBRAIN-UC」を追加し、同年2月5日に国内発売すると発表した。
指定難病である「潰瘍性大腸炎」の寛解期を見定める
一方、EndoBRAIN-UCは、超拡大内視鏡画像から潰瘍性大腸炎の炎症状態を高精度に評価するAIソフトウェアで、大腸がん向けとなる他のEndoBRAINシリーズの3製品とは用途が異なる。
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる原因不明の炎症性疾患で、罹患者数は国内約22万人とされ年々増加傾向にある。若年層に多く見られ、持続的に下痢と血便が繰り返されるのが特徴で国が定めた指定難病の一つとなっている。潰瘍性大腸炎は完治が難しく、通常炎症が強い「活動期」と比較的穏やかな「寛解期」を繰り返す。このため治療法としては、薬による内科的治療で可能な限り炎症を抑え、症状をコントロールすることが重要になる。
慶應義塾大学医学部 内視鏡センター 教授・センター長の緒方晴彦氏は「潰瘍性大腸炎を治療した後再び活動期に入らない状態にするためには、組織学的に寛解したことを確認する必要がある。この組織学的寛解を確認する上で超拡大内視鏡画像が大いに役立っている」と述べる。
EndoBRAIN-UCは、超拡大内視鏡画像を基に潰瘍性大腸炎の組織学的寛解を評価支援するAIソフトウェアである。これにより、従来は生検による病理診断が必要だった組織学的寛解の診断を非侵襲の内視鏡検査で行えるようになる。性能評価試験では感度95%、特異度91%、正診率92%という高い精度が得られたという※2)。
※2)「感度」と「特異度」は※1)を参照。「正診率」は、潰瘍性大腸炎の寛解期・活動期の画像のうち、正しくそれぞれ寛解期・活動期と評価された画像の割合。
昭和大学横浜市北部病院 消化器センター 助教の前田康晴氏は、臨床的寛解の潰瘍性大腸炎患者145人に対して、EndoBRAIN-UCのプロトタイプを用いて1年間経過観察した結果を報告した。1年後に再び活動期に入ってしまう1年後再燃率は、EndoBRAIN-UCで組織学的寛解とした患者では5%、組織学的寛解ではないとした患者では28%となり、「EndoBRAIN-UCにより、再燃リスクの層別化が可能になる」(前田氏)としている。
「内視鏡AIは日本が世界を主導していける」
会見の最後では、AMEDの資金などを活用して内視鏡AIの研究開発をけん引してきた昭和大学横浜市北部病院 消化器センター センター長・教授の工藤進英氏が登壇した。工藤氏は「超拡大内視鏡画像やAIの登場により大腸内視鏡診断学はさらなる新時代を迎えつつある。特に内視鏡のAIについては、日本において良質な内視鏡画像の収集が行えていることもあり、世界を主導していける可能性がある」と強調する。
実際に、EndoBRAINシリーズの学習画像枚数は、EndoBRAINで約11万枚、EndoBRAIN-EYEで約7万枚、EndoBRAIN-Plusで約6万8000枚、EndoBRAIN-UCで約4万4000枚となっており、これら多数の良質な内視鏡画像が、正確な診断結果に基づいてアノテーションされていることがAI開発において重要な役割を果たしているという。
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